コラム

「右肩下がり」岸田政権の命運を左右する分岐点

2023年01月25日(水)18時00分

統一地方選挙という試金石

その前の試金石となるのは、4月の統一地方選だ。ここで勝利を収めたと言える結果になれば長期政権に向けての弾みが付き、惨敗したとなれば、来る国政選挙に向けて求心力は失われていく。いわば岸田政権の命運を左右する「分岐点」になる可能性があるのだ。特に重要なのは大阪府知事選で、大阪で圧倒的な人気を誇る日本維新の会の「看板」吉村洋文知事相手に勝負を挑める候補者を野党側(自民党は大阪では「野党」だ)が擁立できるかがポイントとなる。中央政界で維新は立民と共闘しているが、大阪政界では事情が全く異なる。そうした「ねじれ」を有権者がどう理解するか、選挙の協力体制と開票結果が中央政界における政党間パワーバランスにどのような影響を及ぼすかも含めて、大阪府知事選は注目される。

通常国会ではこれ以外に、不正競争防止法が規定する「外国公務員贈賄罪」の厳罰化といった重要な法改正も予定されている。また、「文書通信交通滞在費」改め「調査研究広報滞在費」の使途公開・未使用分国庫返納といった改革議論は積み残されたままで、防衛増税の国民負担を求めることと表裏一体に、国会議員による自律的経費削減に焦点が当てられることになろう。

ところで、岸田首相は施政方針演説を次のようなエピソードで始めた。「欧米歴訪の際にある首脳から『日本の国会はなぜ"parliament"ではなく"Diet"と呼ぶのか』と問われ調べたところ、Dietの語源はラテン語の『集まる日』だった。国民の付託を受けた我々議員が、まさに、本日、この議場に集まり、国会での議論がスタートいたします」と言う内容だ。

この点について、浅野雅巳・成蹊大学名誉教授の論文によると、Dietは、「一日」という意味のラテン語Diēsが語源であり、それが一日(がかり)の旅や会議という意味に転じ、さらにドイツ語のtag(会議)になった。神聖ローマ帝国の「帝国会議」はReichstagと言ったが、これが英語に翻訳された時にDietとされたという。

これに対して、Parliamentは古フランス語のparlement(喋ること、英speaking)が語源で、12世紀以降の英国で発達した「議会」(Parliament)制度が普及したことに伴って、世界中で「議会=parliament」として一般呼称化したが、日本は明治期にドイツ(プロイセン)の帝国会議体制を参考にしたため、明治憲法下の「帝国議会」がImperial Dietと翻訳され、そのDietがそのまま戦後の「国会」にも引き継がれたということである。

つまり、プロイセンの議会制度を継受したという歴史的な経緯がゆえということだが、岸田首相はDietの語源だけを取り上げ、speak(喋ること)が主眼のParliamentの説明を省いた。それは、師走に党内で炎上しかけた「防衛増税」について、今はもう何も「喋りたくない」という気持ちが現われたのか、あるいはひょっとして、演説中すぐ後ろに鎮座する細田博之衆議院議長(ちなみに衆議院議長の英訳はSpeaker)が、旧統一教会との関係について記者会見を拒んでいることに配慮したのか――それは分からない(その後、衆院議長公邸で細田議長による懇談〔tag〕が実施された)。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国格付け、公的債務急増見込みで「A」に引き下げ=

ビジネス

トランプ氏、対中関税軽減も TikTok売却承認な

ワールド

デンマーク首相、グリーンランド併合を断固拒否 米に

ビジネス

米国株式市場=急落、ダウ1679ドル安 トランプ関
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 2
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 3
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のために持ち込んだ?
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 6
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story