コラム

「嫌韓」保守政治と「反日」旧統一教会の併存を生んだ日本政治の弛緩

2022年09月07日(水)18時50分

80年代末から90年代初めにかけて東西冷戦が終結すると、統一教会は反共の代わりに「世界平和」と「家庭」を前面に押し出し、1997年に世界平和統一家庭連合に改称する(日本での宗教法人名変更は2015年)。文鮮明が2012年に死去した後、妻・韓鶴子(ハン・ハクチャ)が後継するも教団は家族間で分裂。反共に代わる錦の御旗なき教団の影響力は減衰していく。

同じ2012年に安倍元首相は復権を果たし、第2次自公連立政権を樹立するが、政権支持の裾野は神道政治連盟や日本会議など幅広く保守層に広がりを見せていた。旧統一教会はその一端にすぎず、安倍元首相との関係は当初、先代からの残像効果による付き合い程度にとどまっていたとされる。

現在明らかにされている政治家と旧統一教会の関わりは主に教団側からの働き掛けが起点であり、行事出席や祝電、旧統一教会系メディアの取材対応、パーティー券購入や政治献金といった日常的政治活動と、選挙における人員支援や集票などの選挙活動に分けられる。

前者の日常的政治活動は、秘書の派遣など具体的便益が供与された冷戦下の蜜月期ならいざ知らず、近年では数多い組織・団体から受ける依頼と応答の1つとして処理されることが大半であり、「何が問題か分からない」という福田達夫・前自民党総務会長の発言はこの肌感覚に基づくものだろう。

しかし国民の多くは現在、政治が「リップサービス」や「お墨付き」を超えて何か「特段の便宜」を図ったのではないかとの疑念が払拭されていないと感じている。

後者の選挙活動は、選挙には「貸しと借り」が付き物であり、他の宗教団体との利害調整から慎重に扱われる半面、わらにもすがる心理で信徒を利用する場合もある。公職選挙法では選挙支援は無償で行うことを原則として規定しているため、選挙活動を手伝う信徒はそれだけで貴重であり、なおかつ宗教的情熱が選挙活動に親近性を有するからだ。

その濃淡は結局のところ選挙区情勢によるが、今夏の参議院選挙比例区では安倍元首相の秘書官だった候補者が旧統一教会の全面支援を受けて当選した。民主政の土台である選挙にカルトが直接影響を及ぼすことを有権者が見過ごさないのは当然だ。

問題の本質は、2012年以降の教団減衰期と重なる第2次安倍政権時代に、旧統一教会への警戒感が政治の側で「弛緩」したことではないか。

「天宙平和連合」や「世界平和女性連合」の要望に応える議員が多かったのは、旧統一教会色を薄めた名称の使用や霊感商法報道の減少、オウム真理教事件の風化という客観状況だけではなく、政治回路においてカルトに対する警戒ハードルが低下し、政教分離の緊張感が薄れていたという事情があろう。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

商船三井の今期、純利益を500億円上方修正 市場予

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株高の流れを好感 徐々に模

ワールド

トランプ氏「BRICS通貨つくるな」、対応次第で1

ワールド

米首都の空中衝突、旅客機のブラックボックス回収 6
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story