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「ミスター危機管理」はなぜ自らの政治危機を回避できなかったのか
総裁選への不出馬表明後、IPCのパーソンズ会長との会談に向かう菅首相(9月3日)REUTERS-Behrouz Mehri/Pool
<「危機管理型内閣」を率いていた菅首相が自らの政治的危機を回避できなかったのは、安倍前首相と麻生副首相、そして二階幹事長との関係維持にエネルギーを割く「重鎮政治」に翻弄されたのが大きな理由。無派閥政治家ゆえの悲哀だが、来たる自民党総裁選で、派閥は結果を左右しないかもしれない>
菅義偉首相は9月3日、「新型コロナ対策に専任する」として自民党総裁選に出馬しないことを党役員会で表明。突然の「退陣表明」に衝撃が走った。新型コロナ感染拡大と支持率低下という逆風下での「苦渋の決断」か、「追い込まれた末の投げ出し」か。昨年夏の安倍首相退陣を受けて発足した菅政権は、暫定政権としての性格を払拭することなく、わずか1年で終焉を迎えることになる。
菅政権はそもそもコロナ禍の中で誕生した危機管理型内閣だった。ワクチン接種を進めながら「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」として東京五輪を成功させ、その勢いで総選挙に勝利し総裁選で無投票再選を果たすのが、政権維持の基本戦略だと考えられてきた。しかし感染が拡大する中で、ワクチン接種の遅れ、人流制限、五輪の無観客開催、経済的補償等に対する国民の不満が蓄積し、政権支持率は3割前後まで低下。8月22日の横浜市長選挙では、菅首相が支援した小此木八郎前防災相が約18万票差の大敗を喫した。菅首相自身の選挙区である神奈川2区を構成する横浜市西区・南区・港南区でも小此木氏が7ポイントから11ポイント差で敗北しており、10月21日に任期満了を迎える衆議院の若手議員を中心に首相交代を求める声が党内で強まっていた。
事態が動いたのは8月30日だ。この日、菅首相は官邸で二階俊博幹事長と会談し、そこで「幹事長交代の合意」がなされたと報じられた。二階幹事長は5年を超える在任期間を誇る党内最大の実力者で、誰もその首に鈴をかけられない状態が続いていた。岸田文雄前政調会長が26日の総裁選出馬会見で「権力の集中と惰性を防ぐために、党役員の任期を最長3年に制限する」という改革案を提示し驚きをもって受け止められたのは、それが二階幹事長を念頭に置くことが明白だったからだ。二階幹事長を含む党執行部の刷新案が現職の総裁・幹事長サイドから出てきたことは、対立候補である岸田氏の機先を制し改革案を色褪せたものにするに充分だった。同じ30日に菅首相は下村博文政調会長とも会談。総裁選に出馬するなら政調会長を辞任するように求めたと伝えられており、下村氏は出馬見送り表明を余儀なくされた。これらは懸案事項を一つ一つ潰すという菅流の危機管理術がいかんなく発揮されたものだったと言える。
しかし、その翌日に事態は急展開する。菅首相が31日夜に赤坂の議員宿舎で再び二階幹事長と会談した直後、「首相は9月中旬に衆議院を解散し10月17日に投開票。総裁選は総選挙後に先送りする」とするスクープ報道が駆け巡った。党役員人事刷新と結びついた解散説の衝撃は大きく、「9月17日告示、9月29日投開票」と決まったはずの総裁選日程が解散によって先送りされるのは「菅政権延命のための計略ではないか」という疑念が党内から噴出。菅首相は9月1日には「最優先は新型コロナ対策であり、解散できる状況ではない」と弁明し報道を打ち消す事態となった。早期解散・総裁選先送りは菅首相にとってあくまでも選択肢の一つに過ぎなかった可能性が高い。しかし、その意向が「漏れて」ことさらに大きく報じられたことによる二転三転劇を、「総理の解散権が封じられた」と見なす向きもあり、菅首相の求心力が大きく損なわれる結果となった。
2日夕方に菅首相は党本部で二階幹事長と10分程度面談をし、そこで総裁選に立候補する意向を伝え、二階幹事長は菅氏を支援する考えを伝えたと報じられている。役員人事は、3日午前11時30分からの臨時役員会およびその後の総務会で人事一任手続きがなされ、週末の最終調整を経て、週明け6日には内閣改造とあわせて実施される予定だった。
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