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ウイグル問題で「人権」から逃げるユニクロの未来
米中冷戦はもはや言葉の「あや」ではない
バイデン政権は3月3日に公表した暫定版の国家安全保障戦略指針で、中国を国際秩序に挑戦する「唯一の競争相手」と位置づけた。これは、知的財産や個人情報の窃取に象徴される「経済安全保障」の次元に留まらず、アメリカ中心の国際秩序における「覇権」に中国が挑戦しているという認定がなされたに等しい。米中冷戦はもはや言葉の「あや」ではなくなったのだ。
ウイグルにおける「ジェノサイド」について中国政府は正面から否定している。事実の認定だけでなく、伝統的国際法における「大量虐殺」概念と整合するかについても議論がある。しかし、激化する米中冷戦の中でウイグルにおける「人権」問題は既に、国際政治における「覇権」争いの象徴になっているのが現状だ。「人権というより政治問題」なのではなく、「人権かつ政治問題」なのだ。
人権についてはこれまでにも、2011年の国連「ビジネスと人権に関する指導原則」や2015年の英国「現代奴隷法」の制定以来、グローバル企業におけるサプライチェーン(供給網)において奴隷的労働がないか、不当な人権侵害がないかというコンプライアンスと企業の社会的責任(CSR)の観点から、一定の注目は為されてきた。とくにファッション製造業では、中国やパキスタンなどでの劣悪な労働環境の上に低価格のファスト・ファッションが成り立っているという構造的な問題が指摘されてきた。
しかし、今回ユニクロが直面しているウイグル問題は、従来の人権リスクとは次元が異なると理解されるべきだ。「覇権」と「人権」という双焦点を持つ現在の冷戦構造の中で、いかにグローバル企業として事業を存続させていくかという問題が問われている。
「中立」でありたいなら戦略が必要
4月6日には、中谷元・元防衛相や山尾志桜里衆議院議員らによる議連が発足し、人権侵害を理由とする制裁措置発動を可能とする「日本版マグニツキー法」制定の議論が始まった。政治的中立はグローバル企業の常套文句であるが、ミャンマーの軍事クーデターや北京五輪ボイコット問題も含めて、グローバル企業が「人権」問題へのコミットメントと態度表明を否応がなしに迫られる日はこれからも続く。
社会の公器としての企業が政治から逃れること(フリー)は不可能であり、政治的に中立(ニュートラル)であろうとすることも容易ではない。ウイグル産綿花の不使用を宣言して中国国内で不買運動に見舞われているH&Mのような企業もあれば、現状では問題がないとしてウイグル産綿花の使用継続を発表した無印良品(良品計画)のような企業もある。何を他山の石とすればよいのか。
永世中立国を標榜するスイスは国民皆兵制(成人男子徴兵制)を憲法で規定しているが、その存立は防衛力だけではなく、金融資本主義と国際政治の中心の一つであり続けるという国家戦略にもよっている。覇権と人権の狭間でニュートラルでありたいのであれば、立ち位置を担保する戦略が必要だ。そうでないと、人権侵害に対して「見て見ぬ振り」をする卑怯とそしられるだけでなく、中長期的には存立自体が脅かされることになろう。「沈黙は金」は通用しそうにない。
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