コラム

プーチンを相手に「ヒトラー宥和政策」の失敗を繰り返すのか? 当時よりもひどいトランプ一派

2024年04月11日(木)21時26分

「英外相は私のお尻にキスでもしてろ」

ロシア産エネルギーを優先するあまり、核大国との摩擦を恐れるあまり、2008年にプーチンがジョージア(旧グルジア)に侵攻した時も、14年にクリミアを併合し、東部紛争に火をつけた時も、米国と欧州は、サーベルをガタガタ鳴らすプーチンに怯えて、付け入る隙を与えてきた。

キャメロン氏に対し、熱烈にトランプ氏を支持する共和党強硬派マージョリー・テイラー・グリーン下院議員は英スカイニュースに「キャメロンが何を言おうが、私には関係ない。彼は自分の国のことを心配していればいい。糞食らえ(私のお尻にキスでもしてろ)だ」と言い放った。

反ユダヤ主義、白人至上主義、極右陰謀論をまき散らすグリーン下院議員について、FT紙のルース氏は「20年に当選した当初は単なるジョーク扱いで相手にされなかった。しかし今やマイク・ジョンソン下院議長の座を脅かす存在だ」と警戒する。

グリーン下院議員は「ウクライナ政府はキリスト教徒を攻撃している。ウクライナ政府は司祭を処刑している。ロシアはそんなことはしていない。ロシアはキリスト教を攻撃していない。彼らはキリスト教を保護しているように見える」と発言している。

共和党強硬派「ウクライナは敵、ロシアは友」

今回、ジョンソン下院議長はウクライナ支援継続を求めて訪米したキャメロン氏との会談を拒否した。ウクライナは停戦と引き換えに東部ドンバスとクリミア半島をロシアに割譲すべきだとトランプ氏は漏らしている。ウクライナに武器を供給したいと考えている共和党員は少数派だ。

「共和党強硬派はウクライナを敵、ロシアを友とみなしている。それを孤立主義と定義するのは間違いだ。積極的親露派なのだ」とルース氏は指摘する。トランプ氏の推薦で共和党全国委員会委員長に選出されたマイケル・ワトリー氏は公然とウクライナを敵と呼んでいるという。

ルース氏によると、陰謀論の跋扈に絶望して政界を去った共和党議員の1人、ケン・バック氏はグリーン下院議員を「モスクワのマージョリー」と批判する。ウクライナが司祭を処刑しているという彼女のデタラメはクレムリンにつながる「偽情報トロール部隊」が震源地だ。

米紙ワシントン・ポスト(4月8日付)は「クレムリンにつながる戦略家やトロール部隊は米国の孤立主義を助長し、国境警備に対する恐怖を煽り、米国の経済的・人種的緊張を増幅させようとする捏造記事、SNSへのデタラメ投稿やコメントを何千と書いてきた」と報じている。

英誌エコノミストの大統領選予測では、バイデン氏はトランプ氏を44対43でリードする。「トランプ大統領が返り咲けば米国を孤立させるどころか、米国の外交政策をプーチンに有利な方向に転換させる」とルース氏は懸念する。

ウクライナ追加支援が米下院を通らなければ世界は悪夢を見ることになる。

20250318issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年3月18日号(3月11日発売)は「日本人が知らない 世界の考古学ニュース33」特集。3Dマッピング、レーダー探査……新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米教育省、職員の半数を一時帰休に トランプ大統領の

ワールド

米国抜きで軍幹部会合、西側諸国 ウクライナ停戦後の

ワールド

再送-トランプ氏の長男がセルビア訪問、ブチッチ大統

ビジネス

25年春闘、三菱電は1万5000円で回答 組合要求
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「腸の不調」の原因とは?
  • 4
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 5
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 6
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 7
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 8
    トランプ=マスク独裁は許さない── 米政界左派の重鎮…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    企業も働き手も幸せに...「期待以上のマッチング」を…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 5
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 6
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story