コラム

次のイギリス総選挙で政権奪還は確実か...労働党の「鉄の財務相」が打ち出す「成長の3本柱」に注目が

2024年03月21日(木)18時10分

労働者の生活水準も競争力も危機に瀕している

EU離脱で小さくなった英国の株式市場では資本調達に支障を来す。ソフトバンクグループの英半導体設計アームの米ナスダック上場をはじめテクノロジー、バイオ企業のロンドン株式市場からのエクソダスが続く。資本市場のサイズで英国は米国にかなわない。

リーブス氏によると現在、英国の平均的な家庭はフランスより10%、ドイツより20%も貧しい。「賃金が停滞しているのは生産性の伸びが崩壊しているからだ。労働者の生活水準だけでなく、変化の激しい世界における英国の競争力のどちらも危機に瀕している」

経済学とは定量的なモデルや抽象的な理論だけではなく、政治的・哲学的・道徳的な問いに根ざした人間の本質や善良な社会についての価値観の問題だとリーブス氏は説く。市場経済が社会から切り離されると成長の条件は損なわれ、左右両派の政治的反体制運動を引き起こす。

「政治のメインストリームが苦境に対する答えを提示できない時、英国の大半が疎外される時、未来への希望が枯れ、衰退が自己実現的予言となる時、非難だけを撒き散らすポピュリズムが台頭する。私が主張したいのは新しい経済管理モデルが必要だということだ」

法人税の上限を現在の25%に据え置く

成長の速い競合国と比較すると、英国は成長の全要素で劣る。主要7カ国(G7)の中で唯一、投資水準が国内総生産(GDP)の20%を下回る。基礎スキルの低さ、技術・職業教育の格差、管理能力の低さ、地域間格差。コロナ危機以降、経済的に不活発な人が70万人も増えた。

現在、推定6840万人の英国の人口は46年には7660万人に達すると予測される。しかしEUを離脱した英国が「規模の経済」を目指すのは難しい。米国、中国に次ぐ世界第三の経済大国になるとみられるインドと英国のつながりは留学生の急増で強まっている。

リーブス氏は「企業に投資してもらい、強固な基盤の上に経済成長を築きたいのであれば、安定性が不可欠だ。経常予算は日々の費用が収入で賄われるよう均衡を保つ。そして法人税の上限を現在の25%(G7で最も低い税率)に据え置く」と安定性の回復を誓った。

次に「中期的にGDPに占める債務の割合を低下させる枠組みの中で投資を優先する。成長の生命線は企業投資だ。産業政策は戦略的かつ選択的でなければならない。主要な研究開発機関に対する1~3年の資金提供サイクルを廃止し、10年間の予算を与える」と力を込めた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story