コラム

真の「ロシアの愛国者」はプーチン大統領か、ナワリヌイ氏か...獄死した夫の意志を継ぐ妻ユリアさんの叫び

2024年02月21日(水)17時14分

「あきらめて何もしなければ悪が栄えるだけだ」

「私たちは1人ではありません。何かを成し遂げようと思えば必ず成し遂げられます。私は夫の大義を引き継ぎ、祖国のために闘い続けます。ともに立ち上がり、私たちにまとわりつく悲しみや終わりのない痛みを分かち合うことを求めます。私たちの未来を殺そうとしている者たちへの怒りと憎しみを分かち合ってください」とユリアさんは呼びかけた。

06年、致死性の放射性物質ポロニウム210で暗殺されたロシア連邦保安局(FSB)元幹部アレクサンドル・リトビネンコ氏の妻マリーナさんは英政府がプーチンとの取引に揺れる中、「おそらくプーチンやニコライ・パトルシェフFSB長官(当時)は承認していた」という英公聴会報告書の結論を引き出すまで孤軍奮闘した。支援は少しずつだが、広がった。

20年、プーチンの同盟国ベラルーシの大統領選に立候補する予定の民主活動家の夫セルゲイ氏が当局に拘束され、代わりに自分が立候補するまで一介の英語教師に過ぎなかったスベトラーナ・チハノフスカヤさんは民主派リーダーとして国外から抗議活動を主導した。妻の叫びは国内外の魂を揺さぶった。

暗殺や投獄された反プーチン派の政治家の妻たちは死を恐れず、次々と立ち上がっている。

国旗を振りかざし国民に愛国心を求め、密室で権力を握ったとたん私服を肥やし、国民の命を無慈悲な戦争に放り込む。ロシアの美しい大地は今やクレプトクラシー(盗賊政治)と軍産複合の戦時体制に支配されている。ナワリヌイ氏の道徳的勇気と、プーチンが描くグロテスクな歴史と愛国心。

ユリアさんは3月の露大統領選に向け、動き出すとみられている。プーチンのプロパガンダマシンは早くもユリアさんに西側情報機関の手先として活動するセレブというレッテルを貼り始めた。「あきらめて何もしなければ悪が栄えるだけだ」(ナワリヌイ氏の遺言)。ユリアさんだけでなく、私たちにもあきらめるという選択肢はない。

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story