コラム

イスラエル・ハマス戦争を巡る「西側社会のジレンマ」が物語る、歴史の転換点

2023年11月14日(火)19時15分

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第一次大戦休戦記念日の追悼集会に集まったのはわずか数百人だった(同)

「警察上層部は親パレスチナ派を依怙贔屓している」

スナク首相はブラバーマン氏の過激な発言とは一線と画す一方で、EU強硬離脱派の動きを封じ込めるため彼女を重要閣僚に据え置いてきた。しかし首相官邸の了解を取らずに「警察上層部は(親パレスチナ派の)デモ参加者を依怙贔屓している」と題してタイムズ紙(11月8日付)に寄稿したことが命取りになった。

「10月7日にナチス以来最悪のユダヤ人大虐殺が起きた。英国の治安を試しているのはユダヤ人コミュニティーの追悼集会ではない。何万人もの怒れるデモ隊を動員している親パレスチナ運動だ。テロリストが美化され、イスラエルがナチスとして悪者にされ、ユダヤ人がさらなる虐殺の脅威にさらされていることを私たちはこの目で見てきた」(ブラバーマン氏)

「これらの行進が単にパレスチナ自治区ガザへの支援を求めるものだとは思わない。攻撃的な行動をとる右翼や民族主義者のデモ参加者には厳しい対応をとるのに、同じような行動をとる親パレスチナ派の暴徒は明らかに法律を破っていても見逃されるのか。国民は嫌悪の表明、ルール違反、無秩序に対して断固とした積極的なアプローチを期待している」(同)

筆者は親イスラエルでも親パレスチナでもない。第一次大戦休戦記念日のセレモニーと親パレスチナの即時停戦を求めるデモを取材して旧支配者と旧被支配者、旧宗主国と旧植民地国、西側諸国とそれ以外、持てる者と持たざる者の対立と歴史の転換点を痛感せざるを得なかった。解任でブラバーマン氏の主張はさらに過激さを増す恐れがある。

中道右派への回帰を意味するキャメロン氏の外相任命がその毒消しになるとは到底思えない。英国社会は歩み寄るより、ますます分断している。ガザを実効支配するイスラム武装組織ハマスへのイスラエルの徹底的な報復と夥しい流血、英国のイスラエル寄り外交が新たなテロの引き金にならないか不安になる。

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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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