コラム

ドイツ「極右政党」を手なずけて利用...中国「悪魔のリアルポリティクス」がもたらしつつある「成果」

2023年08月15日(火)18時55分

「反中勢力はドイツの利益を代表していない」

「ドイツのための選択肢」の外交政策スポークスマンは「ドイツの外交戦略を装って(急に覚醒したように過激な環境保護を唱える)グリーン・ウォーク・イデオロギーと米国の地政学的利益を実行しようとしている 。中国を競争相手であり、体系的なライバルと位置づけるのは米国の中国に対する対決路線の結果だ」と非難した。

親中派のマクシミリアン・クラー同党欧州議会議員は22年11月、中国共産党系機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」英語版に「ドイツを中国から切り離すことは米国の利益にしかならず、ドイツ自身の産業に深刻なダメージを与える。ドイツ国内の反中勢力はドイツの利益を代表していない」と語っている。

前出のポーズナー氏は「ドイツで起こり得る右傾化の結果を考えるなら、民族主義的なドイツは世界にとって差し迫った脅威にはならない。国内総生産(GDP)が4兆2000億ドル強のドイツは、18.1兆ドルの中国や25兆4000億ドルの米国と比べると微々たるものだ。人口規模と軍事力については言うまでもない」と分析する。

「しかし欧州連合(EU)を破壊し、北大西洋条約機構(NATO)を弱体化させることはできる。ドイツは欧州の支配者にもなれず、北京の音楽に合わせて踊る必要がある」(ポーズナー氏)。中国が「ドイツのための選択肢」に接近する狙いは来年6月の欧州議会選で躍進が予想される同党をはじめとする欧州の極右政党に影響力を持つことにある。

極右をも利用する中国共産党流「悪魔のリアルポリティクス」とでも言うべきか。大戦後、ドイツ国民は「歴史を繰り返してはならない」という言葉を信条としてきた。難民・移民の流入、エネルギー・生活費危機、高くつく政府の温暖化対策への不満で「ドイツのための選択肢」の支持率が20%を超えた今、地球儀を手にドイツの有権者はどう動くのだろう。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story