コラム

ドイツ「極右政党」を手なずけて利用...中国「悪魔のリアルポリティクス」がもたらしつつある「成果」

2023年08月15日(火)18時55分

「神よ、われわれを助けてください。ベアボックは中国で新たな使命を担っている。彼女は『欧州が共有する信念』を強調したいのだ。この信念を共有していないのはフランスだけではない」(ワイデル氏)。大戦後のドイツ外交は米国との関係を何より重視する大西洋主義とフランスを第一の同盟国と考える独仏枢軸の間で揺れ動いてきた。

4月、中国訪問を終えたフランスのエマニュエル・マクロン大統領は機中、仏経済紙レゼコーと米ニュースメディア、ポリティコのインタビューに応じ「私たち欧州人は台湾問題を加速させることに関心があるのか。最悪なのは欧州人がこの問題に関して米国のリズムや中国の過剰反応に隷属的でなければならないと考えることだろう」と発言して物議を醸した。

独首相「中国とのデカップリングが目的ではない」

「欧州は米国、中国と並ぶ世界秩序の第3の大国であるべきだ」というマクロン氏の発言は、欧州の「戦略的自立」、すなわち米中に対して軍事的・経済的依存を避けるという長期目標を再確認したものだった。しかし米国や一部の西側同盟国から「マクロン氏は台湾の安全保障は当面、欧州の関心事ではないことをほのめかした」と厳しく批判された。

7月、ドイツ政府は「中国は変わった。このことと中国の政治的決断によってわれわれが中国に対処する方法を変える必要がある」として自動車生産など中国への経済的依存度を下げる独自の対中戦略を初めて打ち出した。昨年、中国は7年連続でドイツにとって最も重要な貿易相手国となり、モノの輸出入は約3000億ユーロ(約47兆4800億円)にも達している。

アンゲラ・メルケル独首相時代の2005~21年まで北京とベルリンは包括的戦略的パートナーシップを宣言するほどの蜜月ぶりだった。しかしウクライナに侵攻したロシアとの「揺るぎなき友好関係」、台湾海峡の緊張、新疆ウイグル自治区での少数民族弾圧などの問題が吹き出す中国に対して、ドイツはパートナーシップの見直しを迫られた。

「中国とのデカップリングではなく、リスクを最小化するためのものだ」とオラフ・ショルツ独首相が繰り返したようにドイツの対中戦略はジョー・バイデン米大統領が主導する中国とのデカップリングとは一線を画し、ドイツ産業界に配慮した融和的な内容と受け止められている。しかし中国側は「中国はパートナーであり、ライバルではない」と猛反発した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン

ワールド

国際援助金減少で食糧難5800万人 国連世界食糧計

ビジネス

米国株式市場=続落、関税巡るインフレ懸念高まる テ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、相互関税控え成長懸念高まる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story