コラム

プーチンが核のボタンを押す可能性がゼロではない「恐怖」が、欧米に与えた本当の影響

2023年04月04日(火)20時43分

プーチンは「英国が劣化ウランを含む砲弾をウクライナに供与しようとしていることに対する対抗措置だ。米国が同盟国に戦術核兵器を譲渡しないのと同様にロシアもベラルーシに譲渡しない。核拡散防止条約にも違反しない」と述べた。劣化ウランの比重は鉄の2.4倍で対戦車用の砲弾として使われる。

英国のアナベル・ゴールディ国防省担当相は3月20日「ウクライナにチャレンジャー2主力戦車1両を供与するのと同時に劣化ウランを含む徹甲弾などの弾薬も提供する。この弾丸は戦車や装甲車を倒すのに有効だ」と書面で上院議員の質問に答えている。ロシア軍も劣化ウラン弾を保有している。ベラルーシでの貯蔵施設工事も随分前から始まっていた。

英首相官邸「劣化ウラン弾は核兵器と全く関係ない」

英首相報道官は筆者に「昨年、本格的な侵略が始まって以来、ロシアが発している無責任極まりない核のレトリックの最新例だ。軍備管理にこれほどダメージを与え、欧州の安定を損ねている国はロシアを置いて他にない。チャレンジャー2と一緒にウクライナに送られている劣化ウラン弾は通常兵器であり、核兵器とは全く関係がない」と説明する。

「英陸軍は何十年も前から徹甲弾に劣化ウランを使用している。これは標準的な装備で、ロシア軍も使用している。核兵器とは何の関係もない。ロシアはそのことを知っていて意図的に真実を歪めようとしている。われわれはウクライナが違法でいわれのない戦争をはねのけるのを助けるために必要なことを続けていくつもりだ」(英首相報道官)

英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)上級コンサルティング研究員キーア・ジャイルズ氏は「ロシアはウクライナとの戦争で核兵器を実際には発射せずに、その『使用』に成功している。ウクライナへの全面的な軍事支援をためらう米国と西側の同盟国はロシアの核の脅威に対して、より明確な対応を示す必要がある」と指摘する。

230404kmr_bsn02.jpg

英王立国際問題研究所上級コンサルティング研究員キーア・ジャイルズ氏(筆者撮影)

「モスクワの絶え間ない核の威嚇のレトリックは西側諸国の対応を抑止することで今のところロシアに成功をもたらしている。ロシアはウクライナ侵略の結果責任から逃れている。不確実性の幅は考えられているよりはるかに狭いとはいえ、プーチンがウクライナへの核攻撃を命令する可能性はゼロではない。しかし、その可能性は極めて低い」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story