コラム

「人命軽視」エジプトの暗黒を、COP27の温暖化議論「優先」で見逃す欧米は正しいか?

2022年11月09日(水)12時05分
エジプト活動家家族

兄の解放を求めるサナア・セイフさん(COP27会場で8日、筆者撮影)

<COP27の開催国エジプトでは人権と人命をないがしろにする取り締まりが横行しており、気候変動の議論以前に欧米諸国が懸念すべき事例にあふれている>

[シャルム・エル・シェイク(エジプト)発]紅海に面する世界有数の海洋リゾート地シャルム・エル・シェイクで6日、国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が18日までの予定で開幕した。世界の注目が集まる中、開催国エジプトの人権問題に対する懸念が大きく膨らんでいる。

世界197カ国から首脳約120人、代表団、環境団体、ビジネスの関係者ら約4万5000人以上が参加し、気候変動に関する議論は早くも過熱する。エジプトのアブデルファタハ・シシ大統領を公に批判する声は影を潜める。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、エジプト当局はCOP27開催中に反政府行動を呼びかけた数十人を逮捕している。

タクシー800台すべてにビデオカメラが設置され、治安当局が運転手と乗客を監視していると言われる。これまでのCOPでは一般に開放されていた会場外の「グリーンゾーン」への登録にも当局は不当に煩雑な手続きを課しているとヒューマン・ライツ・ウォッチは批判している。ソーシャルメディアの内容をチェックするため携帯電話を提出させるのも常套手段だ。

エジプト政府がCOP27参加者向けに提供するスマートフォンアプリはイベント開催情報の検索には全く役に立たない。しかし、なぜかパスポート番号など個人情報を入力しなければならない。このアプリは携帯電話のカメラ、マイク、位置情報、ブルートゥース接続へのアクセスを要求するため、さらなる監視とプライバシー侵害の懸念を呼び起こす。

性的マイノリティーは有罪

別の国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、昨年、エジプトでは人権活動家、ジャーナリスト、学生、野党政治家、企業経営者、平和的なデモ参加者ら数千人が恣意的に拘束されたままになっていた。数十人が不公正な裁判で有罪判決を受け、失踪や拷問も絶え間なく続いている。少なくとも56人が拘留中に死亡した。

221109kmr_cew02.jpg

COP27リーダーズ・サミットで開幕の演説をするエジプトのシシ大統領(7日、筆者撮影)

LGBTQ+(レズビアン、ゲイ、両性愛、トランスジェンダー、その他の性的マイノリティー)は性的指向や性自認を理由に逮捕、起訴され、長期間、投獄されている。労働組合への参加、ストライキ、仕事の不満や批判を表明することもエジプトでは取り締まりの対象になる。「表現の自由」は厳しく抑圧され、オフラインおよびオンライン上の批判は締め付けられた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ベイルート南部空爆 スンニ派武装組織の

ビジネス

米国の関税、英インフレに下押し圧力=グリーン英中銀

ビジネス

アングル:FRB議長解任の可能性に戦々恐々、確信薄

ワールド

ローマ教皇フランシスコの葬儀は26日、各国首脳が参
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 6
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 10
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story