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「脱化石燃料」は大きく後退...いま必要なこととは? 元国連大使・星野俊也氏が見たCOP27
──今回のCOP27はロシア軍のウクライナ侵攻でエネルギー、食料危機が起き、インフレが世界をのみ込む中で行われました。化石燃料の石油・天然ガスに戻るのか、それとも再生可能エネルギーへの転換を進めるのか「分岐点だ」という声が聞かれます。
星野 やみくもに不安や恐怖をあおるわけではないですが、今、必要な行動を取らないと遠からぬ将来に地球は限界を超え、もはや不可逆的に地球が持続不能な方向に行きかねない瀬戸際にあるという意味で、私はいまが分岐点だと思っていますが、まだそうした危機案は十分に共有されていません。
温暖化対策や脱炭素化も2050年から2070年といった時間軸で語られるとかなり先の話のように思え、取り組みも先延ばしにされがちでした。ですが、ロシア軍のウクライナ侵攻によってエネルギーや食料が不足し、結果的にロシアにカードを握らせるような状況です。
西側がロシアに経済制裁をすると、かえって自分の首が絞められる逆説を受けて、やはり私たちはやるべきことはもっと早くからやっておくべきだったと気づかされたのではないでしょうか。
ロシアの影響力の源泉は、化石エネルギーと核兵器と国連安全保障理事会での拒否権で、さらに国内の情報統制にありますが、これらはどれも過去の遺物です。本来は解消されていなければならないものばかりです。
2015年に国連で合意された「持続可能な開発目標(SDGs)は、私たちがいま経済・社会・平和のシステムの転換点にあることを前提に2030年までにやるべきことを提示したわけですが、進捗は遅く、コロナ禍で後退もし、すでに7年が経過しています。
今回のロシアの軍事作戦でさらに客観状況は厳しくなりましたが、今が「やはり分岐点なんだ」との認識を新たにし、大胆にシステム転換を進めるべきです。それは、ロシアに権力基盤を失わせるという意味でも、戦争終結につながります。
──原油価格が1バレル=90ドル前後で高止まりしていますね。それに連動して天然ガス価格も高くなっています。
星野 どこかで原油価格をコントロールしたいという動きがあるように思います。ロシアがそうかもしれませんし、中東の産油国もそうかもしれません。今回の危機にある程度、便乗してエネルギー価格の高止まりを求めるなどの思惑がないとは言えないと思います。
──COP27では化石燃料ロビイスト636人が登録され、昨年のCOP26より25%以上も増えました。中東諸国はロシア軍のウクライナ侵攻に便乗して原油や天然ガスをできるだけ長く売ることができるよう時間稼ぎをしているのでしょうか。
星野 そこまで断言できるかどうかは分かりませんが、確かに脱炭素化に向けた脱化石燃料の動きが大きく後退していることは事実です。本来は再生可能エネルギーへの転換を進めなければならないと分かっていても、エネルギー危機で時間的な余裕ができたことに便乗したいという思惑を抱いている国はあります。
ですが、それは時代に逆行するものですし、温暖化現象は人間の都合で待ってくれません。重要な移行期の今、短期的な利益に目を奪われ、潜在する巨大なビジネスチャンス、革新的なイノベーションや制度設計がくれぐれも後回しにされることのないよう、願いたいものです。