コラム

首相も「もう無理」...反移民が燃え上がる「寛容の国」スウェーデンで極右政党が躍進

2022年09月13日(火)18時04分
スウェーデン民主党オーケソン党首

選挙集会に出席するスウェーデン民主党のオーケソン党首(9月7日) Tim Aro/TT News Agency/via REUTERS

<かつて「鼻で笑われた小政党」スウェーデン民主党が、移民急増と治安悪化への国民の反発を背に総選挙で議会第2党に躍進。初の政権入りも見えてきた>

[ロンドン発]「寛容の国」北欧スウェーデンでネオナチに源流を持ち、反移民と治安対策を訴える極右の野党・スウェーデン民主党が議会第2党に躍進する見通しだ。11日行われた同国議会(一院制、定数349)総選挙の暫定結果(開票95%)によると、与党・社会民主労働党が議会第1党を維持したものの、野党の右派連合が過半数を獲得する勢いだ。

1988年、スウェーデン民主党はネオナチ関係者が参加して結成されたが、その後「脱悪魔化」が進められる。イスラム系移民の増加と治安悪化、福祉への負担増を結び付けた排外主義的な主張で共感を呼び、2010年に国政進出。その後も着実に議席を増やしていく。主要政党は一線を引いていたが、19年、中道右派の穏健党が同党との協力を表明した。

05年から党首を務めるジミー・オーケソン党首(43)は90年代に穏健党を抜けてスウェーデン民主党に入党。党のロゴを極右・英国民戦線の聖火からアネモネに変え、人種差別的で暴力的なルーツからの脱却を試みた。「平和な福祉国家スウェーデンはイスラム系移民によって破壊された」という政治スローガンを党勢拡大の中核に据え、大成功を収める。

スウェーデン公共放送SVTによると、オーケソン氏は「鼻先で笑われたちっぽけな政党」から議会第2党までの道のりを振り返り、「政権交代があれば私たちは中心的な立場になる。私たちの野心は政府に加わることだ。スウェーデンにとって最善と思われるのはスウェーデン民主党を基盤とする新しい多数派政府だ」と強調した。

「スウェーデンの例外主義」の終わり

スウェーデン紙エクスプレッセンは投票日の数日前に、反ユダヤ的な陰謀論を流したり、ネオナチを称賛したりしているスウェーデン民主党の候補者リストを公開した。その中には推定2000人のメンバーを持つ過激な民族主義組織「フリー・スウェーデン」に所属する人もいる。表面上は「脱悪魔化」しても、地下水系で極右の遺伝子は脈々と受け継がれている。

スウェーデンはかつて移民に寛容な国として有名だった。第二次大戦前はノルウェー人、ユダヤ人、デンマーク人、エストニア人の移民を受け入れた。戦後は1960年代の移民労働者、78年のイラン革命で亡命したイラン人、クーデターで権力を掌握したアウグスト・ピノチェトの独裁から逃れてきたチリ人、旧ユーゴスラビア紛争の難民を庇護してきた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フジ・メディアHD、業績下方修正 フジテレビの広告

ビジネス

武田薬、通期の営業益3440億円に上方修正 市場予

ビジネス

ドイツ銀行、第4四半期は予想以上の減益 コスト削減

ビジネス

キヤノン、メディカル事業で1651億円減損 前12
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? 専門家たちの見解
  • 4
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 7
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story