コラム

首相も「もう無理」...反移民が燃え上がる「寛容の国」スウェーデンで極右政党が躍進

2022年09月13日(火)18時04分

米シンクタンク、ブルッキングス研究所の調査では、1990~2000年代にかけ欧州諸国の移民規制が強化される中、移民に門戸を開放する政策は「スウェーデン例外主義」と呼ばれた。しかし2015年の欧州難民危機で門戸を開放したドイツとスウェーデンに難民が大挙して押しかけたことから「スウェーデン例外主義」は終わりを告げる。

同年11月、ステファン・ロベーン首相(当時、社会民主労働党)は「スウェーデンが今日のような高いレベルで難民を受け入れることができなくなったことは私にとって苦痛である。これ以上は無理。より多くの人々が他国で難民申請することを選択できるようにする。われわれには休息が必要だ」と音を上げた。16年、過去最大の移民16万3000人を受け入れた。

ギャング団の銃撃事件が激増

移民規制の強化で昨年、スウェーデンへの新規移民は9万人強まで減り、長期的には年10万人強で安定する見通しだ。米シンクタンク、ピュー研究所によると2016年当時でイスラム系移民の人口割合は8.1%。28年には12万6800人の子供が生まれ、これらの子供のうち3人に1人は外国生まれの母親を持つという。25~64歳の外国生まれの割合は現在の24%から30%に増える。

こうした急激な人口構成の変化が反イスラム、反移民の排外主義感情の背後にある。今年4月、デンマーク、スウェーデン両国の国籍を持つ極右政治家ラスマス・パルダン氏がイスラム教の聖典コーランを燃やすイベントを計画して、スウェーデン各地で抗議の暴動が起き、治安の悪化を改めて印象付けた。

銃撃事件は2016年、281件発生し、死者は36人。昨年の銃撃事件は344件で、死者は45人。今年はすでに273件の銃撃事件が発生し、死者は昨年を上回る47人に達している。10年の銃撃による死者は20人だったことを考えると、いかにスウェーデンの治安が悪化しているかが分かる。今回の総選挙でも銃撃事件とギャング犯罪の急増が主な争点となった。

移民2世、3世の若者がギャング団を結成し、麻薬取引に絡む銃撃事件が多発するようになった。スウェーデン南部の遊び場で母親と5歳の子供が銃撃を受けて負傷し、ショッピングモールでも銃撃事件が発生し2人が負傷している。スウェーデンの銃犯罪は欧州のどの国よりも速いペースで増加している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米・イラン交渉団、和平目指し直接会談 パキスタン交

ワールド

米軍がホルムズ「掃海」とトランプ氏、イランTVなど

ワールド

バンス米副大統領、パキスタンのシャリフ首相と会談

ワールド

米が資産凍結解除に同意とイラン筋、米当局者は否定
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけない副作用に研究者が警鐘
  • 2
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 3
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦によって中国が「最大の勝者」となる理由
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 6
    革命国家イラン、世襲への転落が招く「静かな崩壊」
  • 7
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 9
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 10
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story