コラム

「中国の『核兵器』近代化計画に明確な懸念」英首相補佐官 対立激化をどう防ぐか

2022年07月28日(木)17時56分

さらに「ロシアの度重なる条約違反、中国の核および通常兵器の拡大ペースと規模、さらに軍備管理協定に関与しないことで状況は悪化している」とラブグローブ氏は指摘する。米国防総省国防脅威削減局局長で前CSIS核問題プロジェクト部長のレベッカ・ハーズマン氏は「エスカレーションのワームホール」によるリスクを指摘している。

「エスカレーションのワームホール」とは、これまでの抑止の仕組みに突然、予測不可能な欠陥が生じることで、ハーズマン氏は「ワームホールによって、戦略的紛争に急速にエスカレートすることが多くなってきている」と警鐘を鳴らしてきた。これを受けて「問題は新しい時代の戦略的安定性をどのようにリセットするかだ」とラブグローブ氏は提起する。

抑止と軍備管理を刷新

抑止と軍備管理を刷新し、より広範で統合的なアプローチをとるため、米英両国はすでに政治・外交・経済・軍事といった国家権力のあらゆる手段を組み合わせる抑止の統合と深化に取り組んでいる。北大西洋条約機構(NATO)や米英豪の安全保障パートナーシップ「AUKUS(オーカス)」、インド太平洋を通じた同盟国やパートナーとの関係強化もその一環だ。

現在の軍備管理の枠組みは時代遅れとして、ラブグローブ氏は(1)参入障壁が低いサイバー兵器、ローテクドローン(無人航空機)、化学・生物学的能力(2)強力な国家が開発し、戦略的バランスを崩す宇宙システム、遺伝子兵器、原子力巡航ミサイル、指向性エネルギー兵器、極超音速滑空機(3)ならず者国家の核兵器開発――を警戒するよう呼びかける。

ロシアはウクライナ侵攻に際し、西側の介入を阻止するため、低威力核弾頭など「使える核兵器」の使用をちらつかせ、核の威嚇を使った。既存の核保有国が斬新な核技術に投資して新しい「戦争遂行用」核システムを開発し、それらを軍事戦略やドクトリンに組み入れて影響力をふるっている。

ラブグローブ氏は「中国の核兵器近代化プログラムには明確な懸念があり、核兵器システムの数と種類を増加させるだろう」と注意喚起する。スウェーデンのシンクタンク、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、中国の核弾頭保有数は、5428発を保有するアメリカや、5977発のロシアに遠く及ばない350発だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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