コラム

「中国の『核兵器』近代化計画に明確な懸念」英首相補佐官 対立激化をどう防ぐか

2022年07月28日(木)17時56分
バイデンと習近平

副大統領時代のバイデンと習近平(2011年8月) REUTERS/How Hwee Young/Pool

<軍備管理に一切関与しない中国への警戒を強める英米。米中首脳会談で、「エスカレーションのワームホール」を埋めることはできるか>

[ロンドン発]スティーブン・ラブグローブ英国家安全保障問題担当首相補佐官が27日、米ワシントンの有力シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)で「軍備管理の未来、戦略的安定性、世界秩序」をテーマに講演し、「より広範な戦略的リスクとエスカレーションに直面している」と、軍備管理に一切関与しない中国の核と軍備拡張に重大な懸念を示した。

米ブルームバーグがジョー・バイデン米大統領と中国の習近平国家主席が28日に電話かオンライン形式で会談すると報じた。これに先立ち英情報局保安部(MI5)のケン・マッカラム長官と米連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官が7月6日「中国共産党が米英両国の国益にもたらす脅威が増大している」と警告を発し、対中警戒を強めている。

核保有国ロシアのウクライナ侵攻で安全保障が綻びた時の損害が顕在化した。同月21日には英秘密情報局(MI6)のリチャード・ムーア長官が米シンクタンク、アスペン研究所の安全保障フォーラムで「米中戦争は不可避ではない。習主席が誤った判断で台湾を侵略しないよう明確にメッセージを送る方法を見つける必要がある」と警告した。

CSISでの講演でラブグローブ氏は「ウクライナでの争いは、中国やロシアのように地域で攻撃的な大国が『力こそ正義』というアジェンダを何の制限もなしに追求できる世界か、それともすべての国家が主権を保ち、競争が紛争に発展せず、地球を守るために協力し合える世界かを決める」と中露の権威主義国家に対して広がる日和見主義に改めて釘を刺した。

「エスカレーションのワームホール」

ラブグローブ氏は「戦略的安定性は危機に瀕している」と言う。「急速な技術革新、ハイブリッド戦争への移行、宇宙やサイバーといった新しい領域での競争拡大など、科学技術の発展によって、より広範な戦略的リスクとエスカレーションの道筋に私たちは直面している」。1950~60年代にも、核兵器の出現によって不確実な状況が生み出された。

抑止と軍備管理によって核戦争のリスクを最小化するバランスを確立する戦略的安定性がもたらされた。当時、エスカレーションの道筋はほぼ予測できる直線的な「はしご」に例えられ、監視と対応が可能だった。しかし人工知能(AI)や自動化、宇宙開発、サイバー空間など科学技術の発展でエスカレーションの道筋は複雑化し、戦略的リスクは急拡大した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story