コラム

脚が吹き飛び、胸を撃たれた時の対処法は? ウクライナ「救護訓練」で見た国民の覚悟

2022年06月24日(金)17時10分

13歳の少年「いざという時みんなの力になれるよう」

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参加者の中に13歳の少年ナザールが交じっていた(筆者撮影)

参加者は軍医と女性兵士を含めて計11人だった。同じ部隊ではなく、軍医や衛生班に限らず、いろいろな部隊から参加している。中に子供が交じっていたので不思議に思って授業が終了したあと、「なぜ戦闘外傷救護の教室に来たの」と尋ねてみた。ナザールという名の13歳の少年で、祖父と一緒にやって来たという。学校はすでに夏休みだ。

ナザールの父親は警察官で、先にマークの戦闘外傷救護コースに参加した。ナザールは「いつロシア軍の攻撃を受け、自分の周りに救護を必要とする人が発生するか分かりません。いざという時にみんなの力になれるよう勉強しようと思いました」と聞き取りやすい英語で説明した。とても13歳とは思えないほどしっかりしていた。

一番前の席で受講していた軍医が「いつミサイルやロケット弾が飛んできて民間人に被害者が出るか分からない状況だ。ロシア軍は軍事施設だけでなく、民間人や一般住宅を無差別に攻撃している。だからわれわれ兵士だけでなく、民間人や少年が戦闘外傷救護の仕方を学ぶことは重要なんだ」と教えてくれた。

ロシア軍は占領地域を確保するため対人地雷を敷設し、すでに犠牲者が出ている。木箱で作った古いものから比較的新しいものまで対人地雷はいくつもある。対人地雷禁止条約(オタワ条約)にはウクライナを含む160を超す国・地域が加盟している。ロシアは「国土防衛に地雷は必要」と加盟を拒んでいるが、これが果たして「国土防衛」なのだろうか。

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ロシア軍の対人地雷などの兵器(筆者撮影)

マークの教室では黒板に堂々と星条旗が掲げられていた。「義を見て為ざるは勇なきなり」という。マークの意気がひしひしと伝わってきた。

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カブール国際空港を出発するアブドゥル・ハディさんの家族。ドーハ経由でカリフォルニアに向かう(マーク・ロペス氏提供)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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