コラム

イギリスで「異例の歓迎」受けた岸田首相、「中露帝国」にどう立ち向かうか

2022年05月06日(金)17時20分

アングロサクソン5カ国の電子スパイ同盟「ファイブアイズ」の中核をなす米英豪3カ国は昨年9月、オーストラリアの原子力潜水艦取得を米英が支援する安全保障協力の新たな枠組み「AUKUS」を抜き打ちで発表した。「AU(オーストラリア)」「UK(イギリス)」「US(アメリカ)」の頭文字を取り、人工知能(AI)や量子技術、サイバーでも協力する。

安倍晋三元首相が第1次政権下の2007年に提唱した日米豪印4カ国の「安全保障ダイヤモンド」は今や「QUAD(クアッド、4カ国の意)」と呼ばれるほど定着した。第4回日米豪印外相会合が今年2月、メルボルンで、第2回日米豪印首脳会合が昨年9月、ワシントンで開催され、日米豪印首脳テレビ会議がウクライナ情勢を協議するため今年3月に開かれた。

機能しない国連とG20

権威主義国家の中国やロシアが安全保障理事会の常任理事国として拒否権をふるう国連や、世界人口の約3分の2、世界経済の約80%を占める20カ国・地域(G20)は機能しないことがロシアのウクライナ侵攻で改めて浮き彫りになった。G7でもロシアの原油・天然ガスに依存する独仏と、ロシアとの対決姿勢を強める米英は一枚岩とはとても言えない。

インド太平洋に傾斜するジョンソン氏は4月に新型コロナ・パンデミックで延期されていたインドを訪れ、ナレンドラ・モディ首相と会談した。10月末までに自由貿易協定(FTA)交渉を大筋で終える目標を設け、国防・安全保障分野ではサイバー協力、宇宙、AIでの関与強化、最新戦闘機、ジェットエンジン先端コア技術の協力について話し合った。

ロシアから原油や武器を輸入するインドは米欧が制裁を強化したにもかかわらず、割引価格でロシア産原油の輸入を増やし、批判を浴びた。安保理や国連総会での対露非難決議も棄権した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と連日のように電話会談するジョンソン氏だが、現地でのモディ首相との共同記者会見ではウクライナ問題への言及を避けた。

中国やパキスタンと国境紛争を抱えるインドにはロシアを敵に回せない地政学上の理由がある。対パキスタンでインドは安保理におけるロシアの拒否権に頼るところが大きい。インドの兵器調達におけるロシアの存在感は低下しているものの、主要兵器はロシア製で、調達の約半分をロシアに依存する。そして中国はパキスタンとの関係を強化する。

英外相「グローバルNATO」体制を提唱

4月27日、リズ・トラス英外相は「地政学が戻ってきた」と題して「ウクライナでの戦争は私たちの戦争だ。ウクライナの勝利は私たちにとって戦略上不可欠。制裁でロシアは100年ぶりの対外債務不履行に直面している。ウラジーミル・プーチン露大統領が戦争資金を調達する場所をなくさなければならない。原油と天然ガスの輸入を断つことだ」と演説した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国、欧州EV関税支持国への投

ビジネス

中国10月製造業PMI、6カ月ぶりに50上回る 刺

ビジネス

再送-中国BYD、第3四半期は増収増益 売上高はテ

ビジネス

商船三井、通期の純利益予想を上方修正 営業益は小幅
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 5
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 6
    米供与戦車が「ロシア領内」で躍動...森に潜む敵に容…
  • 7
    娘は薬半錠で中毒死、パートナーは拳銃自殺──「フェ…
  • 8
    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…
  • 9
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」…
  • 10
    衆院選敗北、石破政権の「弱体化」が日本経済にとっ…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 6
    渡り鳥の渡り、実は無駄...? 長年の定説覆す新研究
  • 7
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 8
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 9
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story