コラム

困窮する弱者を「極右」と蔑むだけでは、「西洋の没落」と「次こそルペン」は不可避

2022年04月26日(火)11時21分
マクロン大統領とブリジット夫人

再選を決め、支持者の歓喜に応えるエマニュエル・マクロン大統領とブリジット夫人(筆者撮影)

<フランス大統領選の決選投票ではマクロン大統領が再選を決めたが、ルペンとの差は前回より縮小。6月の国民議会選に向け、対策が急務の状況だ>

[仏北部エナン・ボーモン、パリ発]4月24日に投開票されたフランス大統領選の決選投票は現職エマニュエル・マクロン大統領が58.5%対41.5%で国民連合のマリーヌ・ルペン氏を前回2017年の大統領選に続き退けた。現職の再選は2002年のジャック・シラク氏以来20年ぶり。前回の32ポイント差から17ポイント差まで縮められ、6月のフランス国民議会(下院)選に向け、暗雲が漂う。

仏内務省によると、登録済み有権者4875万2500人のうち棄権は28%の1365万6109人。白票を投じた人は4.6%の222万8044人にものぼった。棄権や白票のうち548万1881票超がルペン氏に投票していたら「ルペン大統領」が誕生していただろう。強硬左派ジャンリュック・メランション氏は国民議会選の投票で自分を首相にするよう呼びかけた。

マクロン批判票が国民議会選でメランション氏に集まれば大統領と首相の党派が異なるマクロン氏にとっては居心地の悪い「コアビタシオン」が20年ぶりに出現するかもしれない。「極右」と呼ばれる国民連合は旧党名の国民戦線を捨てるなど「脱悪魔化」を進め、貧困者救済を前面に押し出す右派ナショナリスト政党へ方針転換を図る。

共和党と社会党の伝統的二大政党が壊滅し、仏政界は完全に中道、強硬右派、強硬左派の3極化した。筆者は決選投票に合わせ5日間にわたりルペン氏やメランション氏が強いフランス北部やパリを訪れた。北部では日本風に言えば「シャッター街」がジワジワと広がり、朽ち果てていく様子を目の当たりにした。背景に不可避的に進む「西洋の没落」がある。

かつて炭鉱業で栄えた北部

決選投票の朝、筆者はかつて炭鉱業で栄えた北部エナン・ボーモンにいた。炭鉱を中心に発展した欧州の工業地帯は脱石炭化とともに没落した。経済的、社会的落ち込みはエナン・ボーモンも、英イングランド北部、ウェールズ、スコットランドも同じ構造だ。イギリスの場合、EU離脱やスコットランド民族党(SNP)台頭の原動力になった。

エナン・ボーモンでは2014年に国民連合の首長が誕生している。ルペン氏が投票所に来るのを多くの支持者が待ち構えた。どこか具合が悪いのが一見して分かる高齢者や、学歴が高くない若者たち。困窮する社会的弱者に「極右」「人種差別主義者」「ファシスト」のレッテルを貼り、仏社会が抱える問題の本質に目をつぶるのが果たして正しいのか。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 取引禁止

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ワールド

米中国防相会談、米の責任で実現せず 台湾政策が要因
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story