コラム

フィンランドの36歳女性首相が、独裁者プーチンの恫喝に「ひるまない」わけ

2022年04月19日(火)17時24分

報告書は「ロシアが始めた戦争は欧州全体の安全保障と安定を危うくする」と指摘し「フィンランドは自国に対してのみ軍事力が行使される不測の事態にも備えている。ウクライナに対する軍事行動は、高い即応性、持続的な軍事的圧力に対抗する能力、複数の同時戦線における大規模な攻撃を撃退する能力が重要であることを示している」と強調した。

NATO加盟申請をした場合「ロシア国境における緊張の高まりなど予測困難なリスクに備える必要がある。広範囲に及ぶハイブリッド攻撃のターゲットになることへの備えを強化しなければならない」と呼びかける一方で「フィンランドとスウェーデンが加盟すれば、バルト海地域で(ロシア軍が)軍事力を行使する敷居は高くなり、地域の安定は高まる」と記した。

厳密に言えば「中立」ではないフィンランドとスウェーデン

4月に入って、ロシア軍機がフィンランド領空を侵犯し、フィンランド外務省や国防省のウェブサイトがサイバー攻撃を受けた。広範囲のハイブリッド攻撃としてフィンランドは、サイバー攻撃やクリミア併合を強行したのと同じ「リトル・グリーンメン」部隊による侵略開始、化学兵器や低威力核兵器の使用も想定している。

目前に迫る危機に、フィンランド議会の状況も変わる。NATO加盟に反対していた主要政党の中央党も社会民主党もその方針を見直しつつある。反対を続けているのは左翼同盟だけだが、NATO加盟申請を巡る議会での意思決定プロセスはまだ定まっていない。過半数でいいのか、それとも3分の2の賛成が必要なのか、憲法委員会が判断しなければならない。

欧州連合(EU)加盟国のフィンランドとスウェーデンは厳密に言えば「中立」ではない。1994年、NATOの「平和のためのパートナーシップ」に加わり、バルカン半島、アフガニスタン、イラクでのNATO主導の作戦やミッションに貢献してきた。ウクライナ侵攻後、NATOは両国との協力関係を加速させている。両国はNATOの演習にも参加する。

ウクライナ侵攻後、ロシアの恫喝にマリン氏はブレない。「国際法および欧州の安全保障の基本原則に対する重大な違反だ。わが国はウクライナの領土保全と主権を侵害するロシアの一方的な行動を非難する。近隣に自国の権益圏を広げたいロシアの野望は明らかだ」(2月22日、ロシアがウクライナ東部の親露派支配地域の独立を承認した後、フィンランド議会で)

「フィンランドも独立のために戦った歴史がある」

「ロシアの敵対行為の結果、多くのフィンランド人のNATOに対する見方は変わった。この問題は3月1日からフィンランド議会で審議される」(2月28日、アサルトライフル2500丁、弾倉15万個、対戦車ミサイル1500発をウクライナに提供することを発表。エストニアがフィンランドから購入した大砲をウクライナに移送することも許可)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story