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富士通の会計システムが引き起こした英史上最大の冤罪事件 英政府が負担する1570億円の肩代わり求める声も
富士通が開発した会計システム「ホライズン」は、英史上最大の冤罪事件を引き起こした Toru Hanai-REUTERS
<富士通製品の欠陥が原因の冤罪事件で、700人近いイギリスの準郵便局長が借金を背負い、投獄され、ホームレスに転落したり自殺するなどの苦しみを味わってきた>
[ロンドン発]富士通の会計システム「ホライゾン」の欠陥で700人近い準郵便局長が身に覚えのない罪に問われた英史上最大の冤罪事件の公聴会が始まった。英大衆紙デーリー・メールによると、20年超の歳月が過ぎ、自殺者を含め33人が正義の実現を待たずに他界したという。
ホライゾンによる支店口座の不足額を埋めるため借金したり、失職してホームレスに転落したりした元局長がいる。妊娠中に投獄されたり、結婚生活が破綻したり、子供が学校でいじめられ自傷行為に走ったりした例もある。全く心当たりのない罪に陥れられた元準郵便局長の声に耳を傾けると、みな涙なしでは冤罪の苦しみを語れなかった。
準郵便局長は、民営化された郵便事業会社ポストオフィスのフランチャイズとして地域の郵便局の窓口業務を担っている。1999年10月、富士通の会計システム「ホライゾン」が順次、地域の準郵便局に導入された。2000年から15年にかけ、ホライゾンの証拠に基づき窃盗や不正会計の嫌疑をかけられた準郵便局長は3500人にのぼると一部で報じられている。
09年に英専門誌コンピューター・ウィークリーが初めてホライゾンの欠陥で濡れ衣を着せられた7人の元準郵便局長を取り上げた。この事件を追いかけているジャーナリスト、ニック・ウォーリス氏が英BBC放送の番組で疑惑を報じた時、その数は55人に増えた。
18年に集団訴訟が始まった時、被害を訴える元局長は555人に達した。再審で700人近くの有罪判決が取り消される可能性があり、2400人から補償の申し立てが行われている。
2月14日からロンドンの国際紛争解決センターで始まった「ポストオフィス・ホライゾンIT公聴会」は元準郵便局長やポストオフィス、富士通、英政府関係者から証言や証拠を集め、20年以上にわたるホライゾンの導入と欠陥について明確にし、教訓が生かされているかどうか確かめるのが狙いだ。20年2月にボリス・ジョンソン英首相が公開調査を約束していた。
17歳から午前4時に起きて郵便配達
英ウェールズ北西部アングルシー島(人口約7万人)で生まれ育ったヒューイー・ノエル・トーマスさん(74)の第一言語はウェールズ語だ。義務教育を終えたトーマスさんは17歳の時、地元の郵便局で郵便配達を始めた。午前4時に起き、27キロメートル以上の距離を配達して回った。多くの住民と知り合い、18歳の時、妻エイラさんと結婚した。
筆者の取材に応じるヒューイー・ノエル・トーマスさん(筆者撮影)
両親の食料品店を受け継ぎ、店で郵便事業も手掛けるようになる。1980年に食料品店を売り、翌81年に準郵便局経営の権利を購入。91年にもう一軒、準郵便局の権利を手に入れてから仕事が忙しくなり、一度もホリデーを取っていない。問題のホライゾンは99年度に導入され、1日半トレーニングを受けたトーマスさんはマニュアルを見ながら操作するようになる。