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欧州の炭素価格が80ユーロを突破、インフレ加速の懸念を抱えながらも動き出した大市場
脱石炭・化石燃料の削減で合意したCOP26を受けて、炭素市場は活況を呈している metamorworks-iStock.
[ロンドン発]パリ協定6条(市場メカニズム)の実施指針で合意したCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)を受け、欧州の炭素先物市場が一時、二酸化炭素(CO2)1トン当たり80ユーロ(約1万196円)を突破した。100ユーロ(約1万2744円)説まで飛び出す暴騰ぶりだ。年初には32ユーロ(約4078円)を割っていたが、世界の脱炭素化を主導する欧州連合(EU)でCO2排出コストがハネ上がっている実態を浮き彫りにした。
欧州ではコロナ危機による供給制約や労働力不足、需要回復に加え、ガスパイプライン早期承認を迫るウラジーミル・プーチン露大統領による兵糧攻めで天然ガス価格が高騰している。急場をしのぐため石炭火力発電で代替する動きが出て排出削減量の奪い合いになり、先物価格を一気に押し上げた。価格が長期的に高止まりすればCO2の排出削減をはじめ回収・貯留技術、再生可能エネルギーによる水素製造などクリーンエネルギーへの投資が加速されるメリットがある。
しかし欧州では11月時点でリトアニア9.3%、エストニア8.4%、ラトビア7.4%、ベルギー7.1%を筆頭にドイツ6%、スペイン、オランダ各5.6%の急激なインフレが見込まれる。炭素価格の急騰は製品価格に転嫁されてインフレを一段と悪化させ、最終的に低所得者や貧困層の生活を圧迫する恐れがある。EUの行政執行機関、欧州委員会が投機による炭素価格のさらなる上昇を防ぐため市場介入するのでは、との観測も飛び交うほどだ。
パリ協定の「最後のピース」
COP26では47カ国が主要先進国で2030年代、世界全体で2040年代を目標にCO2排出削減措置が講じられていない石炭火力発電からの移行を実現することに賛同するなど脱石炭・化石燃料の動きが加速した。197カ国・地域が「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ摂氏1.5度に抑えるための努力を追求する」と決意した成果文書が採択され、「2022年末までに30年の削減目標を再検討し、強化することを要請する」と明記された。
パリ協定でずっと積み残しになり「最後のピース」と呼ばれた6条の実施指針でも合意に達した。6条はCO2排出削減量を「クレジット」として取り引きする仕組みを定めており、市場メカニズムには2国間取引(2項)と国連主導型(4項)がある。COP26では4項に関連し削減プロジェクトを実施するホスト国と支援するドナー国との間で二重計上を防ぐ一方で、京都議定書時代の古いクレジットは13年以降に限って認めることで妥協が図られた。