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欧州の炭素価格が80ユーロを突破、インフレ加速の懸念を抱えながらも動き出した大市場
炭素市場価値の9割を占めるEU市場
6条についてルールは決まったものの、民間のボランタリー市場や、コンプライアンス市場がどう立ち上がるのか、森林保全・再生など吸収源はどう扱われるのか、プロジェクトの方法論などの運用はこれからだ。一部の環境団体は、カーボンオフセット(どうしても避けることができない排出を削減への投資などと相殺すること)を認めた6条は排出削減の「抜け穴」になると依然として厳しい見方を示している。
COP26での合意について、独ライプチヒにある欧州エネルギー取引所のトビアス・パウルン最高戦略責任者は「ここ数年、世界各国で排出削減量取引制度(ETS)の導入が進んでおり、今回の合意はカーボンプライシング(炭素価格付け)への支持がいかに広く浸透しているかを示している」と評価する一方でこんな見方を示す。
「しかしグローバルなカーボンプライシングや、経済全体をカバーするコンプライアンス市場のようなアプローチがない場合、ボランタリー市場の役割が大きくならざるを得ない。それぞれの経済やセクターの範囲に合わせた異なる炭素価格が存在し続けるだろう。今のところ、法的に義務付けられた『EU ETS』は世界最大かつ最も重要なキャップアンドトレードシステム(排出量に上限を設け排出企業・事業に割り当て、余剰排出量や不足排出量を売買する仕組み)だ」
森林再生・修復プロジェクトの入札を開始する英市場
2020年にEU ETSは世界の炭素市場価値のほぼ9割を占めるまでに拡大した。EUにおける排出削減量の総取引量は81億トンにのぼり、次に大きな市場である北米の取引量の4倍に達したとパウルン氏は胸を張る。イギリスがEU離脱に伴い今年1月に独自に立ち上げたUK ETSについて「イギリスと欧州経済領域(EEA)の歪んだ競争を回避するため、2つのシステムはできるだけ早く再リンクすべきだ」と訴える。
EUは炭素国境調整措置を導入し、域外からの輸入品に炭素課金を行う方針だ。これについてパウルン氏は「国同士や異なる地域間で同等のカーボンプライシングに向かう過渡的なツールとしてのみ存在すべきだ。EUの炭素国境調整措置が発表されたことで、例えばトルコでは排出削減の野心が高まっている。しかし長期的には調整措置は不要になることが望ましい。気候変動対策を進めるためには国際協力の強化が欠かせないからだ」と解説する。
一方、英政府からUK ETSの入札を引き受けたインターコンチネンタル・エクスチェンジ(ICE)のユーティリティー市場担当マネージング・ディレクター、ゴードン・ベネット氏は「UK ETSはわずか半年余りで世界第3の規模を誇るキャップアンドトレードの先物市場に成長した。UK ETSの流動性は取引量、建玉数ともに増加しており、建玉数は5千万トンの炭素に相当する」とEU ETSとは別にUK ETSが存在する意義を強調する。