コラム

欧州の炭素価格が80ユーロを突破、インフレ加速の懸念を抱えながらも動き出した大市場

2021年12月07日(火)17時04分

「COP26で発表された中で最も期待されるのは炭素クレジットの会計に関する情報開示の標準化に向けた動きだ。しかしキャップアンドトレードが大きなテーマにならなかったのは残念だ。ネットゼロ経済への移行はICEのような取引所が提供する価格の透明性なしに効率的に行われない。環境市場は負の外部性である排出量に価格をつけ、正の外部性である再生可能エネルギーや回収・貯留など、より環境に優しい解決策に価値をつけることができる」

ベネット氏は「解決しなければならない課題の一つは、自然資本について例えば農業に利用するのではなく森林を保全するインセンティブを土地所有者に与える必要があることだ。ICEは来年、熱帯地方で大規模な森林再生・修復プロジェクトを展開する英パーミアン・グローバルの炭素クレジットの入札を開始する。この入札を通じて同社の森林プロジェクトが市場で評価され、高品質で信頼性のある検証可能な炭素クレジットの供給拡大に貢献するだろう」と期待する。

ICEは国連のクリーン開発メカニズム(CDM)における認証排出削減量(CER)を通じて08年から炭素クレジット市場に参入し、30億トン以上を取引してきた。「グローバルな炭素価格を設定するためには米西部カリフォルニア州とカナダ東部ケベック州のように個々の制度を公式にリンクさせるか、スキームをリンクさせる他のメカニズムが必要だ。 リンクしない場合、世界各地で異なる炭素価格が使われることになる」とベネット氏はみる。

出遅れが目立つ日本は巻き返しを図れるか

中国の解振華・気候変動事務特使はCOP26で「中国ではすでに発電分野を対象に全国共通市場がスタートしている。この共通市場が排出量の全セクターをカバーするよう努力している。最終的に世界共通市場を構築できることを期待している」との考え方を示した。

日本政府も11年から途上国と協力して低炭素技術の普及を通じてCO2削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う二国間クレジット制度(JCM)をモンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジア、メキシコ、サウジアラビア、チリ、ミャンマー、タイ、フィリピンの17カ国と構築している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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