コラム

「泥縄式」よりひどい日本のコロナ対策 五輪と首相に全責任を押し付けるのが「科学」なのか

2021年08月27日(金)11時49分

ワクチン接種が遅れたのも「リスクを覚悟して打とう」と率先して言う人がいなかったのだ。ごくまれな血小板減少を伴う血栓症を恐れるあまり、すぐにでも打てる英アストラゼネカ製ワクチンの展開を随分後回しにしてしまった。それもこれも全部、五輪と菅首相のせいなのか。こうしたロジックが果たして「科学」と言えるのだろうか。

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大量PCR検査というレーダーを設置せずにコロナ対策を打ってきた結果、日本政府は対国内総生産(GDP)比で55%もの財政出動を実施している。安倍前政権以来「打ち出の小槌」になった日銀の輪転機をいくら回しても誰も文句は言わない。人の命を救うため日本の債務はどんどん積み上がる。政府債務残高は実に257%だ。

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人の命は地球より重いのか

人の命が地球より重い日本では軽症者の重症化を防ぐため、トランプ前大統領が使った抗体カクテル療法を使用するという。お一人様の値段は1千~2千ポンド(15万~30万円)と英大衆紙デーリー・メールは報じている。すでにコロナ治療薬として使われている抗ウイルス薬レムデシビルはお一人様約38万円だ。

医療経済を考えるとワクチンを展開して入院患者を減らすことが最善策だ。尾身氏が繰り返す行動制限は時間稼ぎに過ぎない。民主主義とは「最大多数の最大幸福」を実現することにある。いくら「少数者の権利」を守るためとは言え、自らの意思でワクチン接種を拒否してコロナに感染した人にまで高額な治療薬を使用することに抵抗感を覚えるのは筆者だけか。

膨大な借金を将来世代に回すことが本当に公正なのか。財政が破綻すれば将来世代が十分な医療を受けられなくなる。イギリスの科学者の中には「日本の科学者はメディアや政治家に騒がれて研究費を削られるのを恐れて年金生活者になるまで本当のことは絶対に言わない」と揶揄(やゆ)する人すらいる。それに比して尾身氏は随分マシなのかもしれない。

リスクコミュニケーションで「恐怖」を煽るやり方はコロナ感染者への差別を助長し、社会の閉塞感を充満させる負の側面がある。日本の分科会は「政治」との間にどんなボタンの掛け違いがあったとしても、政権やIOCを批判する前に科学的なエビデンスに基づく包括的なコロナ対策と明確な出口戦略をまず政府に示すべきだろう。

有権者が求めているのは菅首相に親身になって寄り添ってもらうことよりも、全面正常化に向けた科学的なロードマップなのだ。


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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