コラム

五輪強行の一方、コロナ対策では菅政権の周回遅れ感が半端ない

2021年08月04日(水)17時46分

東京都の入院患者は3351人、重症患者は112人。いずれも今年1月のピーク時の3427人、159人に近づいている。そんな時に、いくら重症患者や重症化リスク者の病床を確保するためとは言え「医療アクセスを絞る」というメッセージを国民向けに直接発信すれば不安を増幅させるだけだ。「五輪なんか開くからだ」という都民の怨嗟の声が聞こえてくる。

東京都の倍加時間は新規感染者数が9日間、入院患者数が1カ月弱だ。東京五輪・パラリンピックを今さら中止しようがしまいが医療が崩壊する危険性は十分にある。

日本とイギリスの病院で看護師として働いた経験を持つ外資系コンサルティング会社ZSアソシエイツのグローバル医療経済(HEOR)マネジャー、吉田恵美子氏はこう語る。

「医師ではなく、患者自身が判断しなくてはいけない状況に置かれるとしたら、それはおかしい。コロナ下で試されているのは日本のすべての医療資源を、診療科や病院、都道府県の垣根を越えて活用してコロナ患者の受け入れ態勢を整えられるかということではないか」

医療資源の有効活用がカギ

「日本はOCED(経済協力開発機構)諸国の中でも病床数が多く、もし協力してコロナ専門病院を作ることができればコロナ病床も十分な数を準備できるはずだが、現状のように大きくない病院が少しずつコロナ病床を持っているという状況は誰にとってもよくない。コロナ病院をつくってしまうのは、一つの最善の策だと思う」

「コロナ専門病院があればもう少し効率的にコロナ患者を受け入れ、管理することができるはずだ。日本は全体的な病床数が不足しているのではなくて有効分配ができていないと理解している」

「日本は英国に比べて医療データがなかなか表に出てこないし、個人情報保護法などが壁になってデータの活用もまだまだ進んでいない。すでにある制度を実行に移すのが精一杯で、コロナのような新しい医療の危機に対処するための制度を迅速に計画し、アレンジできないところに日本の医療制度の根本的な問題があると感じている」

メディアも木を見て森を見ず批判だけをしており、もっと全体を見渡して限られた医療資源を有効に活用する仕組みを構築することがまさに火急の課題であることは言うまでもない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story