コラム

中国がやってきて、香港は一夜にして「殺された」──リンゴ日報廃刊までの悪夢を幹部が語る

2021年07月23日(金)20時48分

「過去180年行われてきた香港の流儀とは完全に異なる。これまで香港では適正手続や裁判所の命令が必要だった。全く前例のないことが起きた。ネクスト・デジタルの口座凍結についても状況はほとんど同じだった。ネクスト・デジタルの3つの銀行口座が凍結された。凍結されなかった口座もいくつかあった」

「マネージメントサービス会社に雇われ、派遣されていた従業員200人の給与は何とか払うことができた。しかし凍結された3口座から給与が支払われていた600人以上への6月分の支払いができなくなった」

「凍結されていない口座にはこの給与を支払うのに十分なお金があったのに、引き出そうとすると口座は違法マネーで汚染しているとみなされ、凍結されてしまった」

「私たちは上場企業だが、香港当局によって廃業に追い込まれた。従業員や他の人に支払いたいと思っている数千万ドルがあるが、触れることはできない。結局、取締役会はリンゴ日報を廃刊するという苦渋の決断をせざるを得なかった。財政的圧力は言うまでもなく、従業員の安全のために選択の余地はなかった」

「1千人近い従業員が職を失った。彼らは家賃や学費、電気代も払えなくなった。私たちも会社の電話代が払えなくなった。国安法違反でオフィスを移さなければならなかった。当局は裁判官であり陪審員であり執行人のように振る舞った。こんなことが起こる都市がいまだにアジアのグローバル都市、国際金融センターを名乗っているとは信じがたい」

「異常な状況だ。裁判官も陪審員も執行人も李長官が1人で務めている。カンガルー裁判がまかり通り、金融機関もそれに協力しなければならない。そうなった香港が国際金融センターとしてどのように生き残るのか私には想像できない。中国本土でテクノロジー企業に起きていることと共通のパターンがある」

中国共産党に逆らえば"推定有罪"

クリフォード氏は今月20日、英シンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサエティー」が開いたオンライン報告会で「昨年7月に国安法が施行され、リンゴ日報とネクスト・デジタルが最大の犠牲者になるという不幸に見舞われた。国安法を根拠に数百人が逮捕され、裁判も開かれなかった。開廷期日さえも存在しない」と証言した。その際、筆者の質問に答えた。

報告会でクリフォード氏はこう訴えた。「昨年、200人の武装した警官が編集局に押し入り"証拠"を押収してライ氏らを逮捕した。今年には、それを上回る500人の武装警官がネクスト・デジタルを捜索した。まるでテロ現場のような物々しさだった。彼らはジャーナリストやそこで働く人たちを黙らせたのだ」

「従業員が建物から退去した時、私は取締役会に出席していた。信じられないほど状況はエスカレートしていた。国家に支援された暴力を香港で目の当たりにした。国安法に基づき100本以上の記事についてジャーナリストが尋問された。リンゴ日報の国安法違反を見つけたとは言わなかったが、保安局長官は、有罪と判断して銀行口座を凍結した」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story