コラム

中国がやってきて、香港は一夜にして「殺された」──リンゴ日報廃刊までの悪夢を幹部が語る

2021年07月23日(金)20時48分
リンゴ日報の社屋

廃刊が決まり、外の支持者たちにスマホのライトを振るリンゴ日報のスタッフ(6月23日)  Lam Yik-REUTERS

<武装警官500人に踏み込まれ、なぜか外国の資産まで凍結され、裁判もないまま廃刊に追い込まれた。すべてが、昨日までとは別物の異様な世界だ>

[ロンドン発]香港国家安全維持法(国安法)に基づく資産凍結で6月に廃刊に追い込まれた香港紙の蘋果(リンゴ)日報。発行会社・壱伝媒(ネクスト・デジタル)のマーク・クリフォード取締役が廃刊に至る一部始終を明かした。

フォード氏は筆者に「カンガルー裁判がまかり通り金融機関が従わざるを得なくなった香港がどのように国際金融センターとして生き残れるか分からない」と首を振った。

0723kimuramasato.jpeg
ネクスト・デジタルのマーク・クリフォード取締役(筆者がスクリーンショット)

カンガルー裁判とはカンガルーがジャンプするように適正手続をすっ飛ばし、人を有罪にする不正裁判のことだ。

創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏に続き、ネクスト・デジタルの張剣虹・最高経営責任者(CEO)や同紙の羅偉光編集長ら5人が逮捕され、香港当局によると、リンゴ日報など3社の資産1800万香港ドル(約2億5600万円)が凍結された。しかし実際の凍結資産は70億円を超えるとみられる。

「リンゴ日報を廃刊に追い込んだ金融機関の資産凍結はどのようなものだったのか」という筆者の疑問にフォード取締役は次のように語った。

「6月に保安局長官から香港特別行政区ナンバー2に昇進した李家超(ジョン・リー)政務庁長官は国安法に基づいて金融制裁を科す権限を持つと言い放っていた。裁判所の命令もなく、他の誰もリンゴ日報の資産凍結には関与していない。それに関する全権は李長官に帰属している」

「ライ氏は香港証券取引所に上場されているネクスト・デジタル株の72%に関する権利を行使できなくなった。興味深いのは、凍結されたライ氏の2つの銀行口座はシンガポールにある国際銀行のオフショア口座だったことだ」

「中国の銀行ではなく中国国外の複数の銀行だった。どうして金融制裁が強制可能だったのかは分からない。おそらく外国銀行は中国当局と対立するのを望まなかったのだろう。国安法に則っていれば何でも合法になるという良い例だ」

「口座に触れた者は7年間投獄する」

クリフォード氏によると香港当局の脅しは家族や弁護士にも及んだ。「バンカーやライ氏の家族と彼の弁護士に関係する他のすべての人、彼の弁護士の力を持っている人は誰でも、それらの銀行口座に触れると有罪とみなされ、7年間刑務所に入る可能性があると警告された。表現の自由や報道の自由は犯罪とされ、彼らの財産は剥奪された」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story