コラム

「一国二制度は終わったが、独裁は永遠に続かない」英国に亡命した香港民主活動家、羅冠聡インタビュー

2021年07月07日(水)11時05分
羅冠聡(ネイサン・ロー)

香港の著名活動家だった羅冠聡(ネイサン・ロー)は英国に亡命した今も中国当局から追われる身だ LAUREL CHOR/GETTY IMAGES

<蘋果日報(アップル・デイリー)が廃刊に追い込まれ、壊れゆく香港の現状と中国の横暴を「雨傘運動」のリーダー、ネイサン・ローはどう見ているのか>

香港国家安全維持法が施行されて1年。蘋果日報(アップル・デイリー)が当局の資産凍結で廃刊に追い込まれ、香港出境直前の元主筆が逮捕された。

自由と民主主義が踏みにじられる現状を、旧宗主国・英国に逃れた香港民主派はどう見るのか。

英国に亡命した民主活動家、羅冠聡(ネイサン・ロー)は2014年、学生リーダーの1人として民主化デモ「雨傘運動」を率い、民主派政党「香港衆志(デモシスト)」を組織したが、国安法施行で解散。2020年7月に単身英国に渡った。

その後、羅は外国勢力と結託して国家に危害を加えたとして国安法違反容疑で香港警察から指名手配された。

「表現の自由」が圧殺された香港の現状について、羅は「一国二制度は終わった」と言う。

制度の「本来の目的は香港の自由と自治を守り、民主主義を実現することだったが、中国への返還後、香港の状況は後退し、より権威主義的になった」。

それでも、と羅は筆者に語った。「香港は終わっていない。香港市民は抵抗する勇気と創造性を失っていない」

羅が英国に亡命したのは国安法で投獄され、口を封じられることを恐れたからだ。

「香港は国安法の施行で、表現の自由、集会の自由、政治参加の自由を失った。私たち香港市民はどこにいようと、どんな手段を使ってでも人々の声を押しつぶす警察国家の監視下に置かれている」

香港の未来について羅は短期的には非常に厳しいと見ている。

「当局の強硬なアプローチは続き、香港市民が勇気を振り絞ってモノを言えば政治的な弾圧に直面するだろう。しかし長期的に見れば変わるチャンスは必ずあると信じている。独裁者の支配が永遠に続いた例はないからだ」

羅は中国に圧力をかけるため結束するよう西側諸国に求めた。

※もう1人の在英活動家、サイモン・チェンのインタビューに続く:「香港はディアスポラ。既に10万人が英国にいる」中国から指名手配される活動家サイモン・チェン

(※本誌7月13日号「暗黒の香港」特集では、「警察都市」化する香港の今をリポート。執筆:阿古智子〔東京大学大学院教授〕ほか)

20210713issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

7月13日号(7月6日発売)は「暗黒の香港」特集。アップル・デイリー廃刊で消えた言論の自由。香港を「警察都市」へと作り変える中国の次の標的は。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:ウクライナ巡り市民が告発し合うロシア、「密告

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story