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日立車両の亀裂問題とイギリスの「国鉄復活」
同紙によると、労働党政権も保守党・自由民主党の連立政権も列車リース会社に貪られていると不満を抱いていた。IEPでは契約金額が大きいこともあり、新型車両を製造する日立が主導する特別目的会社アジリティ・トレインズが列車を保有し、各運行会社にリースする官民連携(PPP)スキームが導入された。日立にしてみれば車両製造にとどまらず、約30年にわたる車両リースと27年半にわたる保守事業も一括して受注するビジネスモデルだった。
日立のニュートン・エイクリフ工場が開設した時、保守党のデービッド・キャメロン首相は「日立の巨額投資はイギリスの経済成長の強さを示している。新しい施設は雇用を生み出すだけでなく、次世代の都市間高速鉄道の車両を製造し、通勤者や家族の移動を改善する」と胸を張った。クリス・グレイリング運輸相は800系がデビューした際、遅延や空調の水漏れにもかかわらず「わが国で最もスマートで史上最高の車両」と称賛を惜しまなかった。
しかしイギリスのある鉄道評論家は「インターシティー125、225は1車両当たりの1カ月コストは1万8320ポンド(約282万3740円)だったのに比べ、800系の"AZUMA(あずま)"は3万2890ポンド(約506万9480円)だ」との厳しい見方をデーリー・テレグラフ紙に示している。「AZUMA」はロンドンとスコットランドを4時間半で結ぶロンドン・ノース・イースタン鉄道(LNER)の800系の愛称だ。
英政府は今回の亀裂で生じた損失を納税者が負担することがないようアジリティ・トレインズに補償を求めた。利益より安全が優先される鉄道事業は車両の保守や保線にかける労力やコストを惜しんではならない。しかしコロナ危機で乗客が激減している列車運行会社も、コロナ対策や経済対策で財政支出が膨らむ政府もアップアップしている。自分で蒔いた種は自分で刈り取ってもらうしかないというわけだ。
コロナ危機と分割・民営化路線の大転換
5月20日、グラント・シャップス運輸相は国営企業グレート・ブリティッシュ・レールウェイズ(GBR)を新設し、国鉄民営化によって過度に分割され複雑化したシステムを一つにまとめる改革案を発表した。列車の運行は引き続き民間企業が担当するもののフランチャイズ方式ではなく、GBRが鉄道網や駅などのインフラのほか鉄道事業の契約、運行計画や運賃の設定、発券などのサービスを一元管理する。
イギリスの国鉄は1994年以降の改革で運行とインフラを二分する上下分離方式で運営されるようになり、「上(運行)」の旅客輸送は25の列車運行会社に分割・民営化された。「下(インフラ)」の鉄道網や駅を提供しているのがネットワーク・レール社。車両はリース会社が運行会社に貸し出す仕組みだ。上下分離で同じ路線で運行する複数社が競争することで運賃は下がり、サービスが向上するはずだったが、現実は理想通りには行かなかった。
事業を細分化し過ぎた結果、設備投資と保守管理が不十分となり、2000年には老朽化したレールが破断、4人が死亡し、70人以上が負傷するというハットフィールド脱線事故の大惨事が起きている。