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英変異株の感染力を50%上回るインド変異株の脅威 英の正常化に遅れも ワクチン遅い東京五輪に赤信号
ベルギーのルーベン・カトリック大学のトム・ウェンセリアーズ教授(生物学・生物統計学)がウエルカム・サンガー研究所のデータをもとにイングランドの9地域でどれだけ急速にインド変異株(ピンク色、B.1.617.2)が広がっていくかを予測し、ツイートしている。
Data from @sangerinstitute (which excludes data from travellers & surge testing, and forms subset of @CovidGenomicsUK data) with S dropout data from @PHE_uk superimposed (marker for the Kent variant B.1.1.7) show that also in the UK the Indian VOC B.1.617.2 is rapidly spreading. pic.twitter.com/PPKim5wS8T
— Tom Wenseleers (@TWenseleers) May 13, 2021
インドでのインド変異株(同)の広がりを見てもいかに感染力が強いかが一目瞭然だ。
Overall, in terms of raw data we get the following evolution of lineage frequencies. As others noted there may be sampling biases on this, but very unlikely that labs would e.g. only submit data from the second subvariant B.1.617.2 and withhold data from B.1.617.1. pic.twitter.com/hZkxv2fdja
— Tom Wenseleers (@TWenseleers) May 13, 2021
イギリスでは政治の手抜かりで死者15万人を超える欧州最大の被害を出した。ライフサイエンス分野の科学者や全市民に無償で医療を提供するNHS(国民医療サービス)の努力でワクチンの迅速な開発と展開、変異株の探知に成功し、正常化に向け着実に歩みを進めてきた。しかし未知のウイルスに根拠のない素人の楽観ほど恐ろしいものはない。
ハートに書かれた名前や年齢を見ると涙がこみ上げてくる(筆者撮影)
SAGEが警告するようにインド変異株が大流行し、第2波のピークを超える入院患者が発生したら、犠牲者はさらに膨れ上がるのは必至だ。ロンドンを流れるテムズ川沿いにある「白衣の天使」ナイチンゲールゆかりのセント・トーマス病院の壁には犠牲者一人ひとりを悼む小さなハートが描かれている。筆者より若い命もたくさんある。
ジョンソン首相はインド変異株による入院患者の増加など医療が逼迫する兆候が見られたら即座に立ち止まり、後退する勇気を持つべきだろう。幸いにも筆者は生き残り、2回のワクチン接種を済ませたが、もうあんな悲劇は繰り返してほしくない。ステップ2(屋外営業)に戻ったり、ステップ2とステップ3の間の対応を設けたりすることもできるはずだ。
英ではコロナ対応を検証する調査委設立
イギリスではコロナ対策に落ち度はなかったかを検証する調査委員会が来年設けられる。2024年に予定される次期総選挙をにらみ、調査の開始時期や調査結果の公表時期を巡り早くも政治的な駆け引きが行われている。コロナ危機が終わったと考えるのは時期尚早だ。しかし人命を尊重する立場からは一日も早い検証と公表が求められよう。
7月の東京五輪開催が迫る日本では高齢者へのワクチン接種は1日最高9万回近くに達したものの、1回目の接種を終えたのはまだ66万人弱。それに対して入院患者は1万6620人、宿泊療養者は1万328人、自宅療養者は3万4537人にのぼり、病院からは「医療が崩壊する」と悲鳴が上がる。
日本は、通常株より最大70%感染力が強い英変異株に苦しめられている。その英変異株よりさらに最大50%感染力が強いインド変異株がインドで猛威をふるい、イギリスで流行し始めている。日本政府は今月12日、インド、パキスタン、ネパールに直近で滞在歴のある外国人について入国を原則拒否すると発表し、水際作戦を強化した。
日本国内でインド変異株が流行する兆候が少しでも見られたら、菅義偉首相は東京五輪の開催について科学者の声に耳を傾け、再検討する勇気を持たなければなるまい。ワクチンの展開が遅々として進まない日本で英変異株より感染力が強いインド変異株が大流行したら医療現場は完全に崩壊してしまうだろう。