コラム

アストラゼネカ製ワクチンへの疑いは晴れた EUはワクチン戦争よりイギリスと協力せよ

2021年03月23日(火)06時10分

臨床試験を検証した米ロチェスター大学医療センターのアン・フォルシー教授は「今回の結果はAZワクチンがすべての年齢の大人に感染予防効果があることを改めて証明した。初めて65歳以上の人々にも同じような効果があることが証明されたのは素晴らしいことだ」と指摘した。

バイオ製薬(BioPharmaceuticals) R&Dのメネ・パンガロス上級副社長は「AZワクチンは致命的なコロナウイルスから世界中の何百万もの人々を守る上で重要な役割を果たせる。結果を米食品医薬品局(FDA)に提出し、緊急使用が認められたら米全土に数百万回の投与を展開する準備を進めている」と語る。

「右手の薬指が真っ青になった」

被験者の2割は65歳以上で、6割は糖尿病や重度の肥満、心臓病などコロナの症状が進むリスクが高い基礎疾患を抱えていた。にもかかわらず第3相試験で、血栓症リスクも増加せず、脳静脈洞血栓症(CVST)を発症しなかったことはAZワクチンへの信頼をさらに高めた。

EU加盟国やノルウェーで血栓症やそれに伴う血小板減少が相次ぎ、オーストリアやデンマーク、イタリアでは死亡例も報告された。少なくともEU加盟15カ国や域外の5カ国でAZワクチンの使用が一時停止される事態に発展した。

筆者のところにも「AZワクチンを接種後、指に血栓症が出て、お医者さんから2度目の接種を見送るよう言われた」「血栓ができやすい体質で、本当にAZワクチンを接種しても大丈夫なの」という問い合わせが相次いだ。

159884044_502138197644380_7583392969406425500_n.jpg3月6日にAZワクチンを接種したという53歳の女性(ロンドン在住)は右手の薬指が紫色になった。「アクロシアノーシス」と呼ばれるこの症状は9日間も続いたという。指の写真も添えられていた。

アストラゼネカによると、欧州全体でAZワクチンの接種を受けたのは1700万人以上で、ふくらはぎ、大腿部、骨盤の深部静脈で血液が凝固する深部静脈血栓症(DVT)15件、肺塞栓症22件が報告されている。「一般的な集団で自然に発生すると予想されるよりもはるかに低く、他のワクチンでも同様だ」という。

EUの欧州医薬品庁(EMA)は18日に「血小板の減少を伴うまれな血栓症と関係している可能性は完全には否定できないものの、AZワクチン接種のベネフィットはリスクをはるかに上回る」と評価している。

EMAによると、イギリスとEUを含む欧州経済領域では16日までに約2千万人がAZワクチンを接種しており、血管内に無数の血栓がばらまかれた状態の播種性血管内凝固症候群(DIC)が7例、CVSTが18例確認された。そのうち9人は死亡(大多数は55歳未満で女性)した。ワクチンとの因果関係は証明されていないものの、可能は残るため、引き続き分析を進めている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story