コラム

ワクチン接種「24時間態勢」で集団免疫獲得に突き進むイギリスの大逆転はなるか【コロナ緊急連載】

2021年01月16日(土)13時25分

「自然感染やワクチン接種による免疫は少なくとも1年以上続く。ロンドンではすでに第1波と第2波で人口の25~30%が感染したと推定できる」。集団免疫を獲得するためのしきい値は人口の80%以上とみられるため、単純計算してもロンドンの人口の50%以上にワクチンを接種する必要がある。

推定100万人の犠牲者を出した1889~94年のロシアかぜは「ウシコロナウイルスが人に感染した結果」との研究も報告されているが、1892年にビクトリア女王の孫であるアルバート・ヴィクター王子がこのウイルスに感染して亡くなり、王位継承順位が入れ替わっている。

コロナ危機でもチャールズ皇太子、ウィリアム王子が感染する事態に見舞われたが、幸い2人とも回復した。高齢のエリザベス女王やフィリップ殿下にワクチンを接種したのは2人の命を守ることに加え、イギリスはワクチン接種による集団免疫戦略を世界的にリードする狙いもあった。

英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカが開発・製造したアデノウイルスベクターワクチンは普通の冷蔵庫(摂氏2~8度)でも保管できるため、途上国での接種が可能になる。オックスフォードワクチンで英連邦54カ国24億人をコロナ危機から救うビジョンが浮かび上がってくる。

政府首席科学顧問を創設したウィンストン・チャーチル

イギリスは1066年、ノルマン人の「ウィリアム征服王」に支配されてから千年近く外国勢力の侵略を許していない「千年王国」だ。

しかし第二次世界大戦ではナチスの電撃戦で33万8千人の将兵を撤退させた「ダンケルクの戦い」、旧日本軍に戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスを撃沈された「マレー沖海戦」、13万6千人が降伏した「シンガポール陥落」と今回のコロナ危機と同様、緒戦大敗を喫している。

限られた資源を有効活用して、工業力ではとても勝ち目がないドイツを打ち負かすにはどうすれば良いのか――。当時のウィンストン・チャーチル英首相が物理学者フレデリク・リンデマン氏を助言者として招いたのが現在の政府首席科学顧問の始まりである。

コンピューターの源流となる暗号解読機の開発、ドイツ空軍機の襲来を早期に探知するレーダーの開発と、イギリスは科学力で徐々に劣勢を挽回していく。第二次世界大戦の英本土防衛作戦「バトル・オブ・ブリテン」を巡ってはこんなエピソードがある──。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story