コラム

ワクチン接種「24時間態勢」で集団免疫獲得に突き進むイギリスの大逆転はなるか【コロナ緊急連載】

2021年01月16日(土)13時25分

「バトル・オブ・ブリテン」は史上最大の航空戦として知られ、専守防衛に徹する航空自衛隊の作戦理論のモデルにもなった。昨年、「バトル・オブ・ブリテン」から80年が経ち、13歳の少女が連合国軍を勝利に導いたという秘話が英BBC放送で明かされた。

ナチスの台頭で欧州に暗雲広がる1930年代、イギリス製主力戦闘機「スピットファイア」と「ハリケーン」の開発が進められていた。ドイツ空軍の戦闘機や爆撃機を撃墜するには射程にとらえられる2秒間に200発以上の銃弾を撃ち込む必要があった。

スピットファイアとハリケーンの標準装備は機関銃4丁。それぞれ1分間に1千発発射できる。2秒間なら1丁につき33発。機関銃4丁なら133発、6丁なら200発、そして8丁なら266発撃ち込める。英空軍省のフレッド・ヒルはドイツ空軍との航空戦を制するには機関銃8丁の装備が不可欠と考えていた。

4丁を倍の8丁にすれば、その分機体は重くなり、上昇力や旋回能力など戦闘機の運動性が低下する恐れがあった。そこでヒルは、数学が得意だった娘のヘイゼルに機関銃を8丁にしても空中戦に負けないことを試算してもらうことにした。ヘイゼルは手回し式の計算機を使って、それを見事に証明してみせた。

独裁者ヒトラーは英本土上陸作戦の野望を抱いていたが、連合国軍はギリギリのところでバトル・オブ・ブリテンを制し、上陸作戦を断念させる。英空軍が妥協して機関銃を6丁にしていれば今ごろイギリスにはナチスの旗が翻っていたかもしれない。13歳の少女、いや科学への信念が歴史を変えたのだ。

科学力で巻き返すイギリス

本来、3週間2回打ちで有効性を高めなければならないワクチン接種を12週間2回打ちに切り替えたのもジョンソン首相の即興ではなく、科学の裏付けと助言があった。

緒戦で大きく躓いたイギリスの科学は着実に成果を上げている。ランダム化比較試験で重症患者にステロイド系抗炎症薬デキサメタゾンを投与すると死亡率が3分の1減ることを確認。米ファイザーと独ビオンテックが共同開発したm(メッセンジャー)RNAワクチンの緊急使用を世界に先駆け承認する。

ドイツを見習いPCRや抗体の大量検査を実施。統計サイト「データで見る私たちの世界(Our World in Data)」によるとイギリスの検査件数は1日1千人当たり8.75件。ドイツは2.06件、アメリカは4.59件。スタート地点はイギリスと同じだった日本は0.47件と検査数のスケールアップに完全に失敗した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦が発効、人質名簿巡る混乱で遅延 15カ月に

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story