コラム

ついにEUを離脱したイギリスの「脱欧入亜」に現実味

2021年01月14日(木)16時40分

同等性をめぐってはもともと2020年半ばまでに双方が結論を出す約束で、同年11月、リシ・スナク英財務相が信用格付け機関やデリバティブ取引などの分野でEU側に同等性を認めている。

しかしEUはより慎重だ。「デリバティブ清算について1年半、アイルランドの証券決済について半年間に限定して同等性を認めただけ」と英ノッティンガム大学のセーラ・ホール教授は解説する。現在の期間が過ぎた後、EUが一方的に同等性を審査することになる。

英シンクタンク「ニューフィナンシャル」は報告書で「EU離脱に伴うコストは戻ってこない埋没費用と見なすべきだ。それよりコロナ危機当初の2〜3カ月で注入された1200億ポンド(約16兆9100億円)でどう英経済を回復させるかに傾注すべきだ」と指摘する。

イギリスの離脱で資本市場でのEUのシェアは22%から13%に激減、40年には10%まで下がると予測される。現在はアメリカが43%、中国12%だ。スナク財務相は「これまでとは少し違うことができる」と意気込む。イギリスにとって資本市場としてEUの魅力はどんどん下がっていく。

イギリスは、EU域内で金融サービスを提供できる範囲が縮まっても、市場が大きいアメリカや成長著しいアジアに規制の内容をずらしていく構えだ。つまり、イギリスに集散する資本が欧州を離れてアメリカやアジアに向かう可能性が高い。

日本はどう動くべきか

EU離脱でイギリスは、今から15年後に離脱しなかった場合に比べGDPの4%を失っている恐れがある。スコットランドが再び独立を問う住民投票を行う見通しも強まっている。台頭する中国、衰退するアメリカ、EUの間で日本はどう動くべきか。この激動をチャンスに変えた日系企業がある。NECだ。

「英中黄金時代」を高らかに掲げたイギリスは当初、電子スパイ同盟「ファイブアイズ」のアメリカやオーストラリアの反対を押し切って中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の5G参入を限定容認した。ところが中国に擦り寄ったものの、香港国家安全維持法の強行で「返還から50年間、一国二制度は不変」と約束した英中共同宣言をほごにされた。

コロナ危機でも無策ぶりをことさら喧伝され、最初は中国を当てにしていたボリス・ジョンソン首相もファーウェイ排除に方向転換した。NECはその代替企業として名乗りを上げただけでなく、基地局設備のオープン化規格「O-RAN」を提案する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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