コラム

英・仏独3首脳の表情から読み解くEUとブレグジットの本音

2017年12月15日(金)14時29分

ぐったりのメルケル

「うーん困ったわ。自由民主党(FDP)と緑の党の『ジャマイカ』連立は最初から難しいとは思っていたが、社会民主党(SPD)が大連立継続の条件に『欧州合衆国』構想を持ち出してくるとは思ってもみなかった。そんなこと、できっこないのが分からないのかしら。もうキリスト教民主同盟・社会同盟(CDU・CSU)から突き上げられて大変よ」

「この3年間でEUに150万人もの難民がやって来て、手が回らないのに、トランプのエルサレム首都承認で中東情勢が悪化したらどうしよう。もうお手上げよ。ドナルド・トゥスクEU大統領(首脳会議の常任議長)も私の主張する難民割当制を『効果がない』と批判するなんて、一体どういうつもりなの。信じられないわ」

「マクロンはかわいくて仕方がないけれど、連立交渉は上手く行っても来年の春までかかる。それまでは待ってもらわないと。メイは気楽でいいわね。合意をあせるメイのいる間にブレグジット交渉はまとめたいが、通商協議でも手を抜くわけにはいかない。単一市場はドイツ製造業の最高のサプライチェーン。ドイツの国益を守るためイギリスに一歩も譲るわけにはいかないわ」

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改革の意欲を燃やすマクロン仏大統領だが(同、筆者撮影)

がっかりのマクロン

「メルケルお母さんが連立交渉で身動きできない間は、僕がEUを引っ張るしかない。ソルボンヌ大学での演説でぶち上げた『主権を有する、結束した、民主的なヨーロッパ』構想の反応は今ひとつ。どうも最近、良い子の僕より悪い子のトランプの方が大きなニュースになるな」

「ブレグジット交渉でもジャン=クロード・ユンケル欧州委員長ばかりが目立ってしまって、残念。欧州銀行監督機構(EBA)をロンドンからパリに呼ぶことができたけれど、金融機関はあまりついて来ない。フランスの労働者を『怠け者』呼ばわりして顰蹙を買ったけれど、もう少しだけでも働き者になってもらわないと外資系企業は来たがらないよ」

「でも気候変動サミットをパリで開いて世界の注目を集めることができたぞ。電気自動車でもフランスが世界をリードすれば、雇用も生まれてくる。パリ協定に2024年パリ五輪。これからはロンドンよりパリなのさ。欧州の平和プロジェクトを裏切ったイギリスからはEBAだけでなく、取れるものはどんどん奪ってやる」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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