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シリア停戦発効でも、ますます混迷深まる欧州難民危機 その対処策を考えてみる
難民の押し付け合いは、暴動やISISへの転向者を増やすだけ(マケドニア国境のフェンスを壊そうとする難民たち) Alexandros Avramidis- REUTERS
国際移住機関(IOM)によると、今年に入ってギリシャに上陸した難民はすでに12万369人、昨年同期の3952人を30倍以上も上回っている。ゴムボートでの密航で命を落としたのは321人。一方、イタリアには9086人が上陸し(昨年同期は7882人)、97人が犠牲になった。シリアのアサド政権と反政府勢力の停戦が発効したが、ロシアの容赦のない「駆け込み空爆」がシリア難民の数を拡大させたのは間違いない。
これからエーゲ海の天候は良くなり、気温も上昇してくる。果たして停戦発効で、シリア難民が減るのか、それとも先の大戦以来「最悪」と言われた昨年の難民危機を上回る難民が押し寄せるのか、予断を許さない。孤軍奮闘するドイツの首相メルケルのリーダーシップの下、欧州連合(EU)が協調できるのか、英国のEU残留・離脱の国民投票より、はるかに大きな問題を突き付けている。タイムリミットは3月17~18日にブリュッセルで開かれるEU首脳会議だ。
ドイツの人口10万人当たりの難民申請者は587人
未曾有の難民危機に対処するためには協調が必要なのは自明のことなのに、どうしてEUは加盟国同士が難民を押し付け合う「近隣窮乏化政策」に走るのか。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、トルコが受け入れているシリア難民は約269万人、レバノンが約107万人、ヨルダンが約64万人。レバノンを例にとると人口10万人当たり2万3675人の難民を受け入れている。EU加盟国では人口10万人当たりの難民申請者はハンガリーが一番多く1798人、次はスウェーデンで1667人。昨年110万人の難民が押し寄せたドイツでも同587人で、EU平均では255人に過ぎない。
【参考記事】欧州としての解決策か、それとも近隣窮乏化か EUの命運は四面楚歌のメルケル独首相にかかっている
【参考記事】ドイツを分断する難民の大波
経済的にはトルコやレバノン、ヨルダンより随分、豊かなEUには難民危機に十分対処できる能力がある。まず、EU内の主なプレーヤーの立場と主張を見ておこう。
【ドイツの首相メルケル】
ドイツは難民の受け入れを制限しない。パスポートなしで国境を自由に行き来できるシェンゲン協定を維持する。トルコを支援する代わりにEUへの難民流入を抑制してもらう。EU加盟国の人口や経済力に応じて難民の受け入れ枠を割り当てる。「難民が殺到するギリシャを見殺しにするため、財政危機から救ったわけではない」「これは私たちの歴史にとって非常に重要な局面だ。プランBはない(政策転換はない)」と欧州の結束を呼びかけている。
【ギリシャの首相チプラス】
ギリシャはトルコからのシリア難民流入の主要ルート。隣接するマケドニアが有刺鉄線のフェンスを設置、軍隊を出動させ国境を封鎖したため、3万人の難民が国境近くの劣悪なテント村や首都アテネなどに滞留。財政危機で予算も限られており、「一国の限界を超えている」と支援を要請している。イタリアの首相レンツィも同じ立場だ。
【ハンガリーの首相オルバン】
難民が欧州に押し寄せたのはドイツが甘い顔をしたからで、「モラル帝国主義だ」とメルケルを激しく非難している。EUが合意した難民受け入れの割当制について、「国民の意見を聞かずに実施するのは権力の乱用だ」と年内に国民投票を実施する方針を表明した。国民の大半は割当制に反対。ポーランド、チェコ、スロバキアも割当制反対でオルバンに同調している。