コラム

なぜ韓国の若者は仮想通貨に熱狂するのか?

2021年05月28日(金)15時30分
ソウルの大学で行われた仮想通貨の勉強会

韓国、ソウルの大学で行われた仮想通貨の勉強会(2017年12月)  Kim Hong-Ji-REUTERS

<文政権の下、不公正と格差が拡大した韓国で、仮想通貨は唯一逆転のチャンスになってしまっているからだ>

韓国では仮想通貨に対する若者の関心が高まる中で、価格の乱高下により被害を受ける者も増加している。仮想通貨とは、国家やその中央銀行によって発行された法定通貨ではなく、ブロックチェーンという仕組みにより管理される「暗号資産」で、主にインターネット上で電子的な決済手段として広く流通している。

※「ブロックチェーン」とは複数の取引を1つのブロックにまとめて記録し、それを鎖のようにつなぐ技術である。すべての取引が公開されるので、不正取引を防止する仕組みとなっている。

最近は、法定通貨との混同を防止するために、「暗号資産」という名称も使われており、仮想通貨の代表的な例として「ビットコイン」や「イーサリアム」などが挙げられる。

韓国では2013年4月に「コービット(新韓銀行と提携)」が初めて仮想通貨取引所を設立した後、2014年12月に「ビットサム(NH農協銀行と提携)」と「コインワン(NH農協銀行と提携)」が次々と取引所を設立。仮想通貨の市場規模が急速に拡大した。

韓国の代表的な仮想通貨取引所である「ビットサム」は2017年8月19日の1日の取引高が約2.6兆ウォンに達したと発表した。これは2017年8月18日の韓国証券取引所(KOSDAQ)の1日取引高約2.4兆ウォンを上回る金額である。

2018年に取引所閉鎖を試みるも

さらに、仮想通貨の元祖とも言える「ビットコイン」の2017年12月初めの価格は年始の20倍以に暴騰した。8万ウォン(約7,800円)を投資して資産が280億ウォン(約27.4兆円)まで増加した人などの成功事例がマスコミから次々に報道され、若者を中心に仮想通貨市場への関心はさらに高まった。

韓国のリクルート情報サイト「サラムイン」が2017年12月に会社員941人を対象に実施した調査では、回答者の31.3%が仮想通貨に投資していると回答した。一人当たりの投資金額は100万ウォン(約9.8万円)未満が44.1%で最も多く、1000万ウォン(約98万円)以上を投資した人も12.9%に達した。一人当たりの平均投資金額は566万ウォン(約55万円)だった。

仮想通貨取引の急増を受けて、韓国政府は仮想通貨の不正利用や過剰な投機ブームを防ぐ目的で規制を強化し始めた。2017年12月28日には、実名での取引を義務付ける「仮想通貨取引実名制」や仮想通貨のオンライン広告への規制強化などを柱とする特別対策を実施すると発表した。

さらに、2018年1月には当時の朴サンギ法務部長官が仮想通貨取引所の閉鎖に向けた特別法を制定する方針を明らかにした。すると、市場が反応し仮想通貨の価格は急落した。また、「取引所閉鎖」という発言に対して、20代や30代が強く反発し、文在寅政権の支持率を下げる原因にもなった。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物は横ばい、米国の相互関税発表控え

ワールド

中国国有の東風汽車と長安汽車が経営統合協議=NYT

ワールド

米政権、「行政ミス」で移民送還 保護資格持つエルサ

ビジネス

AI導入企業、当初の混乱乗り切れば長期的な成功可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story