コラム

映画『82年生まれ、キム・ジヨン』と振り返る韓国の女性活躍推進政策

2020年10月29日(木)12時31分

この結果だけを見ると極的雇用改善措置はある程度効果があったように見える。しかしながら、積極的雇用改善措置制度は、常時雇用労働者 500人以上の中堅企業や政府関連機関等だけが対象になっており、全企業数の99.9%を占めている中小企業に対する改善措置は行われていない。

労働政策研究・研修機構の『データブック国際労働比較2019』によると、韓国の就業者及び管理職に占める女性の割合は、それぞれ42.7%と14.6%に留まっており、アメリカ(46.9%、40.7%)やスウェーデン(47.6%、38.6%)を下回っている(日本は44.2%、14.9%)。また、男性労働者の平均賃金水準を100としたときの女性の賃金水準は2017年現在65.4でOECD平均86.2と差を見せている。

積極的雇用改善措置制度が施行された2006年は、『1982年生まれ』での女性主人公が大学を卒業し労働市場に参加したころであり、女性は出産・育児により男性よりも離職しやすいので雇わないという「統計的差別」*が企業の中に蔓延していた時期だと言える。

*統計的差別とは、個人の事情を考慮せず、個人が属するグループ等の過去の統計データの平均に基づいて、その個人に不利な判断をすることを言う。

積極的雇用改善措置制度の施行により中堅企業や大企業を中心に女性がより活躍できる社会になったことは確かであるものの、いまだにも女性に対する「統計的差別」は根強く残されており、まだ改善の余地は多い。韓国政府は、今後、積極的雇用改善措置制度の対象企業を拡大すると共に女性に対する統計的差別等をなくすことにより女性が活躍できる社会を構築するための対策に最善を尽くすべきである。

ただし、積極的雇用改善措置制度の基準をクリアするための資格を満たしていない女性社員が昇進・昇格することにより、男性社員のモチベーションが下がらないよう制度の活用には万全な注意を払う必要がある。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

製造業PMI11月は49.0に低下、サービス業は2

ワールド

シンガポールGDP、第3四半期は前年比5.4%増に

ビジネス

中国百度、7─9月期の売上高3%減 広告収入振るわ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story