韓国政府の医師増員計画に専門医がストライキ──医師不足と地域格差の解消法は
ソウルで行われた専攻医協議会のストライキの様子(8月7日) Yonhap News Agency-REUTERS
<政府の発表に対して、専門医協議会や大韓医師協会が反対の立場を表明。コロナ対策では政府に協力的だった彼らが医大生の定員拡大や医科大新設に反対する理由とは>
韓国政府が医科大学の定員拡大や公共医科大学の設立を発表してから、大韓専攻医協議会(以下、専攻医協議会)を中心とした医師たちとの対立が続いている。教育部の兪銀惠(ユ・ウンヘ)長官は7月23日に開かれた「第10回社会関係長官会議」兼「第4次サラム(人という意味の韓国語)投資人財要請協議会」で、2006年以降3,058人で凍結されていた医科大学の定員を、2022年から毎年400人ずつ、つまり10年間で合計4,000人増やすことで7,000人近くまで増やす計画を明らかにした。
なぜ韓国政府は医科大学の定員を増やそうとするのか?
韓国政府は医科大学の定員を増やす理由として、最近、胸部外科、産婦人科、重症外傷外科等の必需的で命とつながっている専門医を志願する若者が少ないことや医療供給の地域格差が発生していることを挙げている。そこで、公共医科大学を新設すると共に医科大学の定員を増やし、若者が忌避する診療科の専門医を確保し、医療供給の地域格差を解消しようとしている。
OECDの統計によると、韓国の人口1,000人当たり医師数は2018年現在2.39人(漢方医師を含む)で、OECD平均3.49人を下回っている。また、地域別人口1,000人当たり医師数(2019年基準、漢方医師を除く)は、ソウル特別市(以下、ソウル市)が3.1人で最も多く、最も少ない世宗特別自治市(以下、世宗市)の0.9人と3倍以上の格差を見せている。さらに、2020年基準の地域別医科大学と医科大学の入学定員数は、ソウル市が8カ所と826人であることに対して、世宗市や全羅南道は医科大学が一つも存在しておらず、将来に地域内で医師が供給されることが期待できない状況である。
OECD加盟国の人口1,000人当たり医師数(2018年基準)
出所)OECD.Stat Health Care Resources: Physiciansより筆者作成
地域別人口1,000人当たり医師数と医科大学の入学定員
そこで、韓国政府は地域医療に従事する、いわゆる『地域医師』を2022年から10年間で3,000人養成するという計画を立てた。『地域医師』は、特別選考入試より選出され、合格者には、学費などの奨学金が支給される。但し、医師免許を取得した後には、地域の医療機関で10年間勤務することが義務付けられる。『地域医師』が義務を守らず、地域を離れて都会の病院に転職等をした場合には奨学金は還收され、医師の免許も取り消される。また、韓国政府は2022年から10年間で感染症の専門医、重症外傷専門医、小児外科などの専門医を500人、ワクチンの開発やバイオヘルス分野等に従事する専門医を500人養成する予定である。さらに、感染内科専門医や疫学調査官等公共医療分野で働く医師を養成する目的で公共医科大学も新設する方針である。
なぜ専攻医らは医科大学の定員拡大や公共医科大学の新設に反対しているのか?
一方、韓国政府が医大生の定員拡大や公共医科大学の設立を発表したことに対して、専攻医協議会や大韓医師協会は、反対の立場を表明している。インターンとレジデントの約1万6000人が属している専攻医協議会は、8月7日に午前7時から24時間の集団休診に一時的に突入し、反対の姿勢を示した。さらに、21日からは段階的に無期限のストライキに突入すると発表した。つまり、インターンと4年目の専攻医は21日の午前7時から、3年目は22日から、1年目と2年目は23日から業務を中断し、23日午前7時にはすべての専攻医が無期限診療拒否に入る計画だ。
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