トランプをうならせた文在寅の話術
この演説はトランプ大統領も大いに興味を示したようだ。翌日、ホワイトハウスで行われた晩餐会で、「大統領の演説を読んだのですが、とても素晴らしく感動的でした」「演説に対する称賛の言葉をあちらこちらで耳にします」と言及した。
米韓首脳会談の映像などを見る限り、両首脳は終始、上機嫌だった。トランプ大統領と言えば、首脳会談の際の「握手」が有名だ。出会い頭に強く手を結んで大きく振るのだ。これまでの首脳は驚きを隠せなかったが、それを知っていた文在寅は備えていたようで負けずにがっしり握り返した。
演説にせよ握手にせよ、文在寅は会談の雰囲気を盛り上げるために事前に抜かりのない対策を練っていたように見えた。
効率よく話し合いを進める実利を選んだ
また、訪問の形式も文在寅政権の特徴が表れている。米国政府の外国首脳の受け入れは、1. 国賓訪問、2. 公式訪問、3. 公式実務訪問、4. 実務訪問に分かれる。そのうち文在寅政権は3番目の公式実務訪問を選んでいる。国賓訪問より格は落ちるが、国賓扱いであれば、米国側が用意するホワイトハウスの歓迎式や議会での演説など公式日程が増える。まもなくG20などの日程を控えた文在寅政権は、待遇の良さよりも、短い期間で北朝鮮の核やTHADDの配備、そして経済協力問題などを効率よく話し合いを進める実利を選んだとされている。
会談の結果、米韓の外務・国防閣僚協議会(2プラス2)の定例化が決まり、また米国側が「人道的問題など特定の課題で南北対話を望んでいることに対して支持を表明」するとした。これは文在寅政権の掲げる北朝鮮融和政策への支持だと解釈できる。韓国側にとって、大きな成果と見ていいだろう。
先の保守政権と違い、文在寅は北朝鮮に対して強硬一辺倒でない融和政策を主張してきた。しかし、南北が対話を進めるには米国の同意が不可欠、というのが文在寅政権のスタンスであることが、米朝首脳会談の過程ではっきりした。むしろ文在寅はそれを意図的に米国側に示した。
文在寅のジレンマ
7月4日の朝、北朝鮮から弾道ミサイルが発射され、菅義偉官房長官は記者会見で飛行時間は過去最長の約40分間で約900㎞飛び、日本のEEZ内に落下したと発表した。
これに対し、米韓両軍は翌日、韓国東岸で弾道ミサイルの同時射撃演習を行った。弾道ミサイルを使った対抗演習の実施は初めてのことだが、この演習は文在寅政権の提案だったと報道されている。
北朝鮮は文在寅政権発足後、韓国側の平昌五輪の合同開催に難色を示すなど、韓国側の歩み寄りに慎重な姿勢を見せて来た。米朝首脳会談での韓国側のスタンス、そして今回の合同演習を受け、北朝鮮はますます韓国への態度を硬化させるだろう。
8月にはさらに米韓軍事演習が予定されている。いまのところ、北朝鮮を「配慮」した規模の縮小などの予定はなく、緊張状態はしばらく続くだろう。米国と北朝鮮の間に生じるこのジレンマから抜け出すために、文在寅政権は今後、どのような道筋を描くのだろうか。
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