トランプをうならせた文在寅の話術
Jim Bourg-REUTERS
<南北が対話を進めるには米国の同意が不可欠、というの文在寅政権のスタンスが、米朝首脳会談の過程ではっきりした。そして文在寅はそれを意図的に米国側に示した>
文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足しておよそ2カ月。世論の支持率は相変わらず高く、一時70%台まで落ちたものの、再び80%台まで回復している。
国民から文在寅大統領が好印象を持たれている理由に、演説がうまいという点が挙げられている。内容だけでなく、原稿をほとんど見ずにまっすぐ聴衆一人ひとりの目を見て言葉を発するスタイルも話題になっている。
6月28日(現地時間)、文在寅が初の米韓首脳会談のために訪米した時のことだ。一筋縄ではいかないトランプ大統領相手に、お得意の演説も通じないだろうというのが下馬評だった。ところが、思わぬ場所で米国民に強い印象を残すことに成功している。
米国国立海兵隊博物館で行った演説
文在寅は訪米すると、すぐに米国国立海兵隊博物館を訪れた。「米国史上、真珠湾攻撃に次ぐ最悪の敗戦」と称される、朝鮮戦争時の「長津湖(チャンジンホ)の戦い」の犠牲者の碑がある場所だ。文在寅は夫人と共に花輪を携えて、碑の前に立つと、献花を行った。
長津湖の戦いとは、現在の北朝鮮の北方エリアの咸鏡南道長津郡で、国連軍が中国軍に囲まれ殲滅の危機に瀕した戦いであり、米海兵隊1万5000人のうち4500人が死亡、7500人が負傷した。
中朝国境のギリギリまで追い上げて来た国連軍だったが、この敗戦を機に海路を通じて一時撤退を余儀なくされた。その際、国連軍は共産軍の戦火から逃れた1万5000人の避難民を船に乗せている。
着の身着のままの避難民で溢れかえった船上にいたのが、文在寅の両親だった。船は釜山沖の巨済島に着岸し、その地で文在寅が生まれたのだ。
文在寅は献花の後の演説で、母親から聞いたというエピソードを披露した。
船上でクリスマスを迎えた際、米兵が避難民らにキャンディを一つずつ配ったという。文の母親は「たった一つのキャンディだったけれど、戦火に追われた多くの避難民に、クリスマスプレゼントを配ってくれた暖かい心づかいがとてもありがたかった」と、幼い文在寅に話したという。
献花式には長津湖の戦いで実際に戦った元兵士や、その遺族が参列していた。67年前のその出来事に、参列者たちは涙を浮かべ、文は彼らを見つめた。このエピソードは米国に向かう飛行機の中で、文在寅が自ら書き足したのだと韓国で報じられている。
文在寅はこう強調した。「長津湖の勇士たちがいなければ(中略)私も存在しませんでした」「米韓同盟はそのような戦争の砲火のなか、血で結ばれました。数枚の紙の上のサインで結ばれたものではありません」と。
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