コラム

シェアライド議論の背景にある、新ビジネスに「感情的に反対」ばかりする日本人の「損」な気質

2023年12月07日(木)11時43分
タクシーとシェアライド

AMR ABDALLAH DALSH–REUTERS

<今になって慌ててシェアライド議論が盛り上がっている様相は、かつての「大店法」のケースとよく似ている>

これまでほとんど進展が見られなかったライドシェアに関する議論が急激に盛り上がっている。ライドシェアについては、2015年のウーバーの日本進出計画をきっかけに議論の対象となったものの、タクシー業界の猛反発に加え、世論も反対の声が大きく、日本では実現せずに現在に至っている。

ここにきて、急きょ、ライドシェアの導入が検討されているのは、地方の人口減少やタクシー運転手の高齢化など、日本経済の構造問題が抜き差しならない状況となり、ライドシェアがないと移動手段を確保できない地域が続出しているからである。こうした現状を考えると、議論が進むことそのものは必然であり、意味のあることと言えるかもしれないが、一方で議論をスタートするのが遅すぎたという指摘は免れないだろう。

日本では何か新しいことを始めようとすると、まずは感情的な反対論一色となりがちだ。後になって必要性が強く認識されるようになると、今度は十分な検討もせず、電車に乗り遅れるなとばかり拙速に導入してしまうケースも少なくない。

かつての「大店法」とコンビニの教訓

今回の騒動は昭和時代に大きな政治問題となった「大店法」のケースによく似ている。

1960年代、各地で大型スーパーの出店が相次ぎ、地域商店の経営が脅かされるという懸念が生じた。このため政府は73年に大規模小売店舗法(大店法)を施行し、大型店の出店を厳しく規制するようになった。これによって小売事業者は大規模な店舗運営ができなくなり、アメリカのように大量の商品を安値で販売するという手段が日本では断たれてしまった。

状況に苦慮した大手事業者は、法の網をかいくぐる形でコンビニに活路を見いだし、結果的にコンビニが全土を埋め尽くすというかなり特殊な状況になった。言い換えれば、日本型コンビニというのは政府の規制が生み出した独特な業態と見なしていいだろう。

では大店法が地域商店を守ったのかというとそうではない。結果的に無数のコンビニがあらゆる地域に出店し、地域商店は駆逐されてしまった。消費者も大きな利益を得ていたとは言い難い。コンビニは店舗の面積が小さく運営効率が悪いため安値販売ができない。結果としてコンビニはしばらくの間、定価販売が原則となり、日本の消費者は高い買い物を強いられた。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story