コラム

人間の敵か味方か...グーグル検索を置き換える? 今さら聞けないChatGPTの正体

2023年06月02日(金)15時00分

230606p18_KHK_03.jpgチャットGPTを開発したオープンAI社のサム・アルトマンCEO(写真)が目指す未来は? JIM WILSONーTHE NEW YORK TIMESーREDUX/AFLO

個人の知的格差を拡大させる

ビジネスソフトの分野で圧倒的なシェアを持つ米マイクロソフトは、同じくオープンAI社の技術を用いながらも、正確性や客観性をより重視した対話型AIを模索している。同社は今年5月初め、自社ブラウザであるEdge(エッジ)に標準搭載されているBing(ビング)と呼ばれる検索エンジンに対話型AIを実装し、一般公開を始めた。

マイクロソフトのAIはどの情報源から情報を取得したのかを明確に示し、分からないものは分からないと回答する割合が高い。その点においてマイクロソフトが提供するAIは良心的と言えるのかもしれないが、現在、主流となっているチャットGPTや、今後、新しく登場する対話型AIがさらにフレンドリーなサービスを提供した場合、信頼性が不十分であったとしても多くの利用者がそれらのサービスに流れてしまう可能性は否定できない。

仮に信頼性や客観性を重視するサービスが併存したとしても、その信頼性や客観性を誰が担保するのかという問題が常に付きまとう。

現時点において、信頼性や客観性を重視したAIサービスを実現するためには、参照する情報源の中で、政府機関や主要メディア、学術機関のウエートを高める形にならざるを得ないだろう。この手法は従来の価値観における客観性を担保する作業と近いのだが、一部の利用者は従来の社会において既得権益を持つ人たちが情報をコントロールすることに強く反発するだろう。

ドナルド・トランプ前米大統領の支持者には陰謀論者が多いといわれる。だがこの議論は反対側から見たときにそうなるのであって、本人たちはそれが真実だと心の底から信じている。陰謀論を信じる人たちは、政府機関やメディア、学術団体が情報の信頼性を担保することに激しく抵抗している。

一方で、政府がAIの挙動に対して規制を加えることもリスクが大きい。既に中国ではそうなっているが、専制的な国家の場合、AIはむしろ国民を統制するツールとして活用される可能性が高い。政府の力によりAIの挙動を変えられる仕組みをつくってしまうと、政治的に悪用されるリスクを常に背負うことになる。

結局のところAIが社会に普及すればするほど、社会全体として何が正しいのかを、誰がどのようにして定めるのかという問題に突き当たる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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