コラム

ロシアという国の本質を考えると、外国企業「国有化」は十分あると覚悟すべき

2022年03月23日(水)17時15分
モスクビッチ

旧ソ連の「国産車」モスクビッチ MICHAEL OCHS ARCHIVES/GETTY IMAGES

<ウクライナ侵攻を受けてロシアから撤退する企業が相次いでいるが、これまでの経緯を考えるとプーチンがこれらを国有化することは十分あり得る>

ウクライナ侵攻によって経済制裁を受けているロシアが、自国から撤退した西側企業を国有化する方策を検討している。他国の資産を一方的に接収するというのはまさに暴挙といえるが、ロシアという国の本質を考えた場合、こうした手段を用いる可能性は十分にある。現実問題として紛争が長引き、ウラジーミル・プーチン大統領が権力を維持した場合、旧ソ連や北朝鮮のような国にシフトすることも念頭に置く必要があるだろう。

ロシアに進出している西側各国の企業は、ウクライナ侵攻に伴い、ロシア国内から撤退、あるいは店舗や工場などを一時閉鎖するといった措置を実施している。ロシア側は西側企業の対応はロシアに対する戦争行為であると主張し、報復措置として西側企業の国有化を検討している。現時点では検討段階であり、実施が決まったわけではないが、同国の歴史やプーチン政権が進めてきた産業政策を考えた場合、一方的に外国企業を接収することはあり得ると考えたほうがよい。

旧ソ連は、第2次大戦終了後、ドイツの自動車メーカーの工場を接収しモスクビッチという国産車の生産を開始した。当時のソ連の技術力は西側とは大きな隔たりがあり、工場を接収したとはいえ、高性能な自動車を開発することはできなかった。それでも国産車の製造は旧ソ連崩壊まで続き、国民は品質の低い自動車に乗らざるを得なかった。

プーチンの国家統制的な産業政策

旧ソ連とは体制こそ異なるが、プーチン政権も1998年の経済危機をきっかけに、西側に依存しない産業構造の構築を進めてきた。具体的には石油や天然ガスなど、経済の基軸となる産業について国家主導で育成するとともに、優先度の高い分野を重点的に支援する国家統制的な産業政策である。

2014年のクリミア併合によって西側から経済制裁を受けたことをきっかけに、プーチン氏は可能な限り自国産製品を用いる輸入代替策をさらに強化している。金融面でも、米欧が力を持つ金融市場に支配されないよう国債発行を最小限にとどめ、国営のズベルバンクが国民の預金や決済の多くを管理する体制が構築された。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

「ロボタクシー撤退」の米GM、運転支援技術に注力へ

ビジネス

米キャタピラー、通期売上高は微減の見通し 需要低迷

ワールド

欧州委員長、電動化や競争巡りEUの自動車業界と協議

ワールド

米高裁、21歳未満成人への銃販売禁止に違憲判断
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story