コラム

バイデン政権で米長期金利が上昇すれば、日本の債券市場も動きだす

2021年01月14日(木)18時40分

G0d4ather-iStock.

<アメリカの長期金利が本格的な上昇に転じるかどうかは、米新政権の2つの政策次第。そして日本の市場も無縁ではいられない>

(※1月5日発売の本誌「2021年に始める 投資超入門」特集より。編集部注:一部の情報は2020年12月末時点のものです)

2021年の債券市場で最大の注目ポイントは、アメリカの長期金利が本格的な上昇に転じるかどうかだ。

国内の債券市場は10年物国債の利回りが2020年はずっと0%近くに張り付いており、異様なほど動きがない。こうした状態は長くは続かないので、アメリカの金利上昇をきっかけに相場が動きだす可能性がある。
20210112issue_cover200.jpg
リーマン・ショックを機に各国が量的緩和策を実施して以来、近年の長期金利は低下傾向が鮮明になっている。

金利が低過ぎると過剰流動性を招き、株式市場や不動産市場にバブルを発生させる可能性があり、金融機関の経営にも悪影響を与えてしまう。日本ではマイナス金利の導入で銀行経営は危機に瀕しており、メガバンク各行は空前のリストラを余儀なくされている。

アメリカの中央銀行に当たるFRB(米連邦準備理事会)は量的緩和策が十分に効果を発揮し、低金利の弊害も懸念されたため2014年に量的緩和策を終了し、長期金利の引き上げを図った。だが、これに待ったをかけたのがドナルド・トランプ大統領である。

トランプ政権は好景気と株高を演出したいと考え、一時はFRBのジェローム・パウエル議長の更迭を口にするなど金融当局を強く牽制してきた。

このため景気が回復しているにもかかわらず金利を上げることができず、結果として株高と債券高(金利は低下)が同時進行するというある種の異常事態が続いてきた。

だが2020年後半に入ってジワジワと金利が上がり始め、7月に0.5%台を付けていた10年物米国債の利回りが11月には0.9%を超え、1%をうかがう展開となった。長期金利が上昇に転じた最大の理由はコロナ危機である。

アメリカ政府はコロナ対策を実施するため、大型の景気対策を発動しており、財政は悪化する可能性が高い。財政悪化は金利の上昇とインフレを招くので、債券市場が敏感に反応しているとの解釈だ。

FRBもコロナ対策優先との考えから多少のインフレを容認するメッセージを発したことも、投資家に説得力を与えている。ここ1カ月は多少値下がりしたが、金価格が上昇したこともインフレ期待による金利上昇を裏付ける材料の1つと言ってよいだろう。

magSR20210114debtmatters-chartB.png

本誌2021年1月12日号32ページより

日本の金利も連動する

2021年もこの流れが続くかは新政権の経済政策に懸かっている。ジョー・バイデン氏は大規模な財政出動を公約に掲げており、景気拡大が期待される一方、財政悪化懸念はさらに大きくなった。長期的には金利上昇の材料がそろうが、鍵を握るのはFRBの金融政策とグリーン経済の動向だ。

transaction_accounts_superbanner.jpg

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story