コラム

3人に1人が貯蓄300万円未満 老後の経済問題は今後さらに深刻化する

2020年09月16日(水)18時27分

PROSTOCK-STUDIO/ISTOCK

<還暦世代の貯蓄額は、2000万円に届かない人の割合が6割超え。そこに年金受給額の減額が追い討ちをかける>

今年、還暦を迎える日本人の約3割が、300万円未満の貯蓄額しかないとの調査結果が明らかとなった。昨年は老後2000万円問題が話題となったが、2000万円が本当に必要なのかはともかく、十分な蓄えを持たない高齢者が多いのは事実である。現役の労働者は今後、昇給がさらに抑制される可能性が高く、老後における経済問題はより深刻化する可能性が高い。

プルデンシャル ジブラルタ ファイナンシャル生命が、還暦を迎える男女2000人に対して行った調査によると、現時点における貯蓄額(配偶者がいる場合には配偶者の貯蓄額も加算)の平均は3078万円に達した。だが、平均値というのは数値の大きい一部のデータに引っ張られる傾向が強く、これだけで判断するのは危険である。

割合が最も多かったのは100万円未満で、全体の20.8%を占めていた。次いで500万~1000万円未満が12%、1000万~1500万円未満が11.9%、100万~300万円未満が11.6%となっている。300万円未満を合計すると32.4%、逆に2000万円以上は35.2%とほぼ同率だった。全体を俯瞰すると、300万円未満、300万~2000万円、2000万円以上が、それぞれ約3分の1だ。

日本型雇用の見直しによる影響

老後にいくら必要なのかは、基礎的な支出額や完全引退の年齢、年金受給額などによって変わるので一概には言えない。だが、貯蓄額が300万円未満で安定した老後を過ごせる可能性は低く、3分の1がこの条件に合致しているというのは、やはり厳しい状況と言わざるを得ないだろう。

一般的に貯蓄額と現役時代の年収はほぼ比例すると考えられる。年収が低い人は貯蓄も年金の受給額も少ないはずだが、今後はさらに事態が悪化する可能性が高い。コロナ危機の影響もあり、経済界は日本型雇用の見直しを加速している。既に複数の大手企業が、一律の定期昇給を廃止したり、優秀な人材に対しては新入社員の段階から高い賃金を払うなど人事制度の改革を進めている状況だ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物は続伸、イランがイスラエル攻撃準備との報道

ビジネス

インテル、第4四半期売上高見通しが予想上回る 株価

ビジネス

アップル、見通しさえず株下落 第4四半期は予想上回

ワールド

米裁判所、マスク氏訴訟の手続き保留を決定 大統領選
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後はさらなる「倒産増加」が予想される
  • 2
    「まるで睾丸」ケイト・ベッキンセールのコルセットドレスにネット震撼...「破裂しそう」と話題に
  • 3
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 4
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 5
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 6
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 7
    天文学者が肉眼で見たオーロラは失望の連続、カメラ…
  • 8
    中国が仕掛ける「沖縄と台湾をめぐる認知戦」流布さ…
  • 9
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 10
    自爆型ドローン「スイッチブレード」がロシアの防空…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 5
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 7
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 8
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 9
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 9
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story