コラム

日本よ、縮小を恐れるな──現実を直視して「豊かな小国」になろう

2020年06月03日(水)12時05分

生産性の向上やIT化の促進など日本が乗り越えるべき課題は多い METAMORWORKS/ISTOCK

<新型コロナの混乱の中で次々に露わとなった日本の課題。こうした歪みを正すには抜本的な経済モデルの見直しが必要だ>

コロナ危機では、残念ながら日本社会の脆弱性が一気に露呈した。マスクやアルコールなど基本的な資材が不足し、政府の経済対策は規模が小さく十分な効果が出ていない。

各種の支援金や給付金を迅速に支払うことができず、オンライン申請ができなかったり、対応できてもトラブルが頻発するなど、IT基盤が未成熟であることも明らかとなった。なぜ日本の社会インフラはうまく機能しないのだろうか。

それぞれ原因はあるが、全体として言えるのは、日本に経済的余力がなくなっており、平時において不要不急な支出や投資が、全て後回しになっていることが影響している。

例えばマスクは、通常は花粉症対策として購入されるケースがほとんどで、価格が安い製品なので、多くが中国から調達される。これを全て国内産にすることには経済的合理性がない。

だがマスクは緊急時に戦略物資となるものであり、非常時に確保できる体制を整えるには、公的機関がコストをかけて備蓄するか、日本メーカーが一定の生産量を維持するしかない。前者の場合には財政的な余力が、後者の場合には、高付加価値な医療用マスク(および原料)市場にシフトし、高いシェアを獲得することが求められるが、どちらも対応できていなかった(事実、ドイツは同輸出市場で高いシェアを誇っている)。

現金給付に時間がかかるのも根は同じ

またアルコールについては日本以外にも原料のエタノールを輸入に頼る国は多いが、日本はブラジルという特定国への依存度が突出して高い。しかも、国内に大型のケミカルタンカーが接岸できる港が少ないため、積み替えを行う韓国にも依存している。

以前も本コラムで指摘したが、給付金や支援金を迅速に支払えなかったのは、税制や労働行政に不備があり、経済活動優先でコストのかかる面倒な改革をおざなりにした結果だ。日本はIT投資に消極的で、技術的に劣位になっているとの指摘は以前からある。緊急時にシステムがうまく作動しないのは、ITを軽視し、投資を怠ってきたツケであることは言うまでもない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story