コラム

日本よ、縮小を恐れるな──現実を直視して「豊かな小国」になろう

2020年06月03日(水)12時05分

幸い日本は感染者が少なかったため、完全な医療崩壊に至らなかったが、医療体制は貧弱であり、人口当たりのICU(集中治療室)数はドイツの4分の1程度、人口当たりの医師数は半分程度しかいない。ドイツは日本に近い公的医療保険制度であり、人口当たりの看護師数など近い水準のものもあるが、全体として見れば差は歴然としている。

一連の出来事は、日本企業の生産性が先進諸国と比較して低く、経済的に余力がなくなったことが根本原因だ。この部分を改善しない限り、個別に対策を立案しても、全て対症療法に終わってしまう。

こうした指摘を行うと、必ず「日本をおとしめている」といった誹謗中傷を受けるが、現実から目をそらす言動こそ日本をおとしめている。本当に日本を愛しているのなら、不都合な真実にも向き合い、事態を改善すべきだろう。

日本は戦後、大量生産を武器にひたすら規模の拡大を追求してきたが、状況は変わった。人口も減少に転じた今、付加価値の高い産業に特化し、1人当たりの豊かさを追求する戦略に舵を切る必要がある。コロナ危機は、薄利多売を続けてきた日本の経済モデルが限界に達したことを示している。日本は勇気を持って戦線を縮小し、「豊かな小国」への道を歩むべきである。

<本誌2020年6月9日号掲載>

20200609issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月9日号(6月2日発売)は「検証:日本モデル」特集。新型コロナで日本のやり方は正しかったのか? 感染症の専門家と考えるパンデミック対策。特別寄稿 西浦博・北大教授:「8割おじさん」の数理モデル

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インド、一部鉄鋼輸入に一時的関税 中国からの安価な

ワールド

ローマ教皇死去で後継者選びへ、非欧州系・進歩派の路

ワールド

トランプ氏支持率2期目で最低に、権力拡大に懸念=調

ワールド

ゼレンスキー氏、民間施設攻撃停止実現に「あらゆる形
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 2
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 7
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 8
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 9
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story